こんな落ち着いていたっけ?随分シンプルな服装になった気がする
靴下にマグカップ、お気に入りのアイシャドウ。私の持ち物はピンクで溢れている。会社のデスク周りもピンクの文房具でいっぱいだ。
幼い頃から、可愛らしいものが好きだった。一番気に入っていた服は、さくらんぼのモチーフがたくさん付いたニット。24歳になった今も、「可愛いもの好き」を卒業することはなかった。
しかし、改めて思い返すと、随分シンプルな服装になった気がする。雑貨や小物がピンクであっても、全身ピンクなんてありえない。通勤時は白いニットに浅葱色ベースの花柄スカート。
ふと、思った。私ってこんなに落ち着いていたっけ?
さくらんぼニットの自分も、ピンクのキャミソールにフリルスカートを合わせていた自分も、もういない。好きなものを着ているつもりだったけど、知らないうちに世間に合わせていたのだろうか。
調子が悪いと「それでいいのか?」と超ポジティブな自分が問いかける
高校生の頃、生徒指導の先生から「あなたは我が強すぎる。校則で決まっていることは、みんな守っているでしょ」と言われた。
だって、仕方がないじゃない。私はピンクのカーディガンが着たかったんだもの。
「誰にも迷惑をかけていない」と反論した私に、「みんな我慢しているのに。そういうのを迷惑って言うんだよ」と先生はため息をついた。
先生、見てますか?今の私は「そういう」迷惑を一切かけずに生きています。
髪色はダークブラウンだし、ネイルも控えめだし、タトゥーだって入っていない。言いたいことがあってもグッと堪えるように(少しは)なったと思う。
けれども、疲れた日や生理前、調子が悪いときは「それでいいのか?」と頭の中の自分が問いかけてくる。ディズニー映画の主人公のような超ポジティブな自分が。「それでいいの?」「あなたらしくないんじゃない?」と。
あ〜〜〜鬱陶しい!!!
「自分らしく」って、最高にステキだけど、最高に最悪なコトバだ。だって、周りに合わせるって、生きていく手段だし。確かに好きなようにできればいいけれど、誰かに潰されたくないし。
小さなインテリアや爪先のピンクが、今の私にぴったりなのだ
仕方がないんだ!……いや、でも私って、もっとエネルギッシュだったような気もする。我慢している気もする。自分ではなくなってしまう気もする。考え出すとキリが無い。
その日は休日で、カフェで読書をしようとしていた。せっかく充実した1日にしようとしていたのに。考え事の罠にはまって、「自分らしさの呪い」が私から離れなくて、モヤモヤ。鬱屈とした気分になってしまった。
もう、どうしようもなくなって、本を閉じた。そうだ、ネイルサロンに行こう。キレイになることが一番の薬だ。オーダーはピンクのラメがたっぷり入ったネイルに決めた。
2時間後、手元を見ると、落ち着いた服装には似合わないほどのキラキラとした爪が輝いていた。曇っていた心がたちまち晴れて、スキップするような気持ち(本当にしていたかも)で帰宅した。
そうだ、ピンクは反逆心なのだ。私の捨てきれない反逆心なのだ。
靴下にマグカップ、アイシャドウに、10代の頃まで持っていた尖った心が残っている。まだ残っているんだ。絶対に捨てたくない、10年後も20年後も捨てたくない、心の片隅にあるピンク。
ちょうどいい、私らしさ。小さなインテリアや爪先に、そのぐらいのピンクが、「大人」になりかけた私にはぴったりなのだ。
ピンクのカーディガンを着たくて泣くことは、もう二度とないだろう。正直、寂しくもある。「自分らしくない」「つまらない大人になるの?」。そんなふうに言われたって何も反論できない。それでも、そんな自分に満足している。
だって何度も挫折して、何度も心が折れて、それでも立ち上がって。消えてもおかしくない自分らしさを、きっと小さなピンクが支えてくれていたから。
明日も真面目に生きようか。マスクの下には真っピンクのリップを付けて。