自他共に認める「超」完璧主義者だった私

大学の頃、部活内でエニアグラム診断が流行った。質問に答えていくことで、9つの性格タイプの中から、自身の性格に最も近いタイプがわかる。最も数値が高いタイプが、自分を表すタイプだそうだ。
私の結果は、数値が9で最も高かった「完璧主義者」。
全てに完璧を求め、妥協や諦めは許せない真面目なタイプを表す。

これは自他共に認める診断結果だった。
部活も授業もバイトも人との約束も絶対に遅刻しない。
大学のレポートは提出日の一週間前には提出した。完成度に納得がいかないと夜中でも書き直した。
休みの日でも、遅くまで寝てしまうと、時間を無駄にしたと自分を責めて自己嫌悪になった。
ごみがきちんと分別されていないと気がすまなかった。
その日の部活の練習で納得がいかないと、気が晴れるまで自主練した。
周りが怠惰だと、なんでちゃんとやらないのか、とイライラした。
「超」がつくほどの完璧主義者だった。

就活を始め、自分の性格を語る場が増えると、いろんな企業の人から「今どきそこまでストイックにできる人、なかなかいないよ」「うちでも最後までやり抜いてくれそうだね」と褒められるようになった。その頃から、完璧主義者の自分を誇らしく思うようになり、いろんな場面で、完璧主義な自分をアピールしまくっていた。

仕事は丁寧に妥協なくこなした。それが私の性格だと思ったから

そして、そんな私を採用してくれた企業に営業職として入社した。入社時に、課題として新卒全員がおこなった自己アピールプレゼンでも、何事にも妥協しない自分、何があっても最後までやり抜く自分をアピールした。プレゼンの完成度も納得いくまで高め、その甲斐あってか、新規事業を担当する部署に配属された。

「営業なんて向いてなさそ〜」
就活を始める頃に、そう言っていた周囲の人たちに言ってやりたかった。
「私はここで成功するんだからね!期待されてるんだからね!」と。

私の営業の仕事は、人材ビジネスだった。人を企業や事業所に売り込む仕事だ。
毎日のように、営業の電話をかける日々。一日150件近い電話をかけた。いくら明るい声で挨拶しても、丁寧に頼んでも、電話を切られるのは当たり前だった。
「経済新聞を読むのは、この業界の常識だ」と上司に言われ、苦手な新聞も毎日時間をかけて読んだ。どこが買収された、株価がどうなったなんて全く関心もなく面白くもなかったが、上司やお客様との話題づくりのために、ただひたすら読んだ。
毎日の日報はぎっしり書いた。日報のネタ集めのために、上司にたくさん質問をし、自分の意見をたくさん書いた。日報を埋めることに満足感があった。

丁寧で妥協のない仕事ぶりを褒めてくれる上司に応えるために、毎日必死だった。
「ここで成功するには、何事もやり通さないと。私は超がつくほどの完璧主義者だから」
いつしか、自分を完璧主義者の性格に当てはめていた。

影を潜めていた芸術家の自分が、母の問いを繰り返した

入社して半年が経とうとしていた頃、実家にいる母から連絡がきた。
「仕事はどう?楽しい?最近帰ってこないけど、休みの日はちゃんと好きなことできてるの?」

そういえば、エニアグラム診断では、9点の完璧主義者が自分の個性として選ばれたが、実はその一方で8点の「芸術家」の自分もいた。自分の個性に重きを置き、自分のやりたいことをとことんやるタイプだ。
1点差で完璧主義者の前に出ることはなく、影を潜めていた芸術家の自分が、母の問いを繰り返したような気がした。
「仕事は楽しい?」
楽しくなかった。苦しかった。正直、向いてないことにも薄々気づいていた。それでも、辞めるなんて根性がない、諦めなければいつか上手くいく、と完璧主義の自分が私を繋ぎ止めていた。

しかし、休みの日は絵を描いたり、お菓子を作ったり、アウトドアをとことん楽しんだりしていた芸術家の私はどこかに消えていたなぁと、ふと気づいた。休みの日に趣味を楽しむ気力もなく、経済新聞を読んでいたから。

自分らしくいる道を選んだら、楽しい日々が訪れた

「仕事、辞めようと思う」
母にそう伝えた。
この決断に迷いはなかった。
途中で投げ出してしまうことや、周りの期待を裏切ることへの悔しさや申し訳無さはあった。
でも、私は自分らしくいる道を選んだ。

退職後、次の仕事を始めるまでの一ヶ月を存分に楽しんだ。
久々に実家に帰ると、母も父も「親は子どもが元気なら、何の仕事してたっていいんだから。いつでも帰ってきなね」と言ってくれた。

今では、新しい仕事が毎日楽しいし、好きなこともとことん楽しんでいる。休みの日は好きなだけ寝るし、仕事で小さなミスをしても、明日取り返せばいいやと思えるようになった。
超完璧主義者だった自分から抜け出した世界は、とても身軽で、心地よかった。
今エニアグラム診断を試したら、芸術家の私は、堂々と姿を現してくれるのだろうか?