ここ数日、日本を一番騒がせているのは知床遊覧船のあの痛ましい事故だと思う。
小さなお子さんを含む多くの方が亡くなり、未だ見つかっていない方もいらっしゃるという。

事件の原因には、知見が無い人の「だろう運転」があったと思う

この一件は、まだ全貌も明らかになっておらず決着も着いていない。
私は元々ニュースを真剣に見る質でもないし、このニュースだってTwitterや Yahooニュースを流し読みした程度の知識しかない。
その上で、認識が間違っているかもしれないが、私が感じたことをここに書き残しておきたいと思う。

どうしてこんな痛ましい事件が起こったのか。
そこには、知見が無い人間の「だろう運転」があると私は思う。
今回の一連の報道を流し見ると、実際のところは分からないが、今回事故が起こった会社の社長は海洋に関して門外漢で、実際に航行を行った船舶の船長もまだまだ歴の浅い方だったらしい。
経営方針の転換があり、昨年には大規模な人員整理が行われたと聞く。
素人目には穏やかそうな海も、玄人目線では危険極まり無いものに見える。
そういうリスク管理というか、互助機能というものが働かないような体制になってしまっていたのではないだろうか。

価値が見えにくく、まずコストとして削減されがちな人件費

コロナ禍で、観光業界は大打撃を受けた。
いつ終息するかもわからない自粛の空気の中で、会社の存続の為に経営体制を見直すことは致し方無いことだと思う。
コストを切り詰めることも理解は出来る。
ただ、この日本という国で有事に一番にカットされるのが人件費なのは如何なものなのだろうか。
その人がサービスや技術を提供するから、そこに人件費が発生する。
その中でもより高い人件費がかかっている人達というのは(すべてではないかも知れないが)サービスの質が高かったり、長年の知識や経験、勘というものを積み上げた所謂ベテランと呼ばれる人達なのではないだろうか。
そういう彼ら彼女らの知識や技術というのは、確かにお金に換算しづらいものがある。
しかしそういう人の存在があるからこそ、その企業なり団体なりが成り立っているということが多かれ少なかれあると思う。
悲しいかな日本という国は、そういう目に見えない価値にお金をかけることを嫌う国民性を持っていると思う。
元々ものづくりが盛んでそれが当たり前にあるからこそ、その有り難みが分からないのか、目の前にある物には価値を見出すが、その手前にある提供者や技術者を蔑ろにしがちだ。

効率化を図る「画期的」なシステムは、穴だらけだった

最近、私の勤め先の家電量販店では、エアコンのWEB見積もりなるものが導入された。
店頭でご自宅の状況をヒアリングし、別日に業者が見積もりに伺うことなく最短で取り付け工事を行うことが出来るというものだ。
字面だけ読むと画期的なシステムのように見える。
しかしその実、このシステムは穴だらけだ。

WEB上のいくつかの質問をスタッフと顧客が確認しながらチェックしていくと、設置状況に合わせた工賃が自動で算出される。
そこで過不足が無いか確認し、契約が成立する。
もちろん、工事だって滞りなく行われる筈だ。
しかし、今現在このシステムでご提言が頻発している。
WEB見積もりを行った工事で追加請求や、そもそも工事が行えないなどのトラブルが続出しているからだ。
どうして、きちんと設問通りヒアリングを行なっている筈なのに、そんなことが起こるのか。
答えは単純で、工事業者の目を通していないからだ。
店頭で行うWEB見積もりは、どうしても顧客の記憶頼りになってしまう。
皆さんも思い出してほしい。
自宅のエアコンの設置状況、経年、細かに思い出すことが出来るだろうか?
室内ならまだしも屋外の配線がどうなっているかなんて、とてもわからない。
販売をフォローアップする販売員だって、販売のプロではあるが工事のプロではない。

サービスや技術を軽視し、「安さこそ正義」という思想がはびこる

会社の言い分としては、工事業者の手間を減らすことによって最もエアコン工事が混み合う夏場、工事をどの会社よりも最短で多く受注できる環境にすることが目的なので、お店のスタッフのヒアリング能力を向上させてください、とのことだが、そもそもエアコンの取り付け工事なんてしたことも無いスタッフがヒアリング能力を向上させたところで、という話である。
顧客を待たせない、と言えば聞こえはいいが、その実売上になるかどうかもわからない見積もりなんかに業者を割きたくない、というのが本音だろう。

しかし、プロの目を通さないことで逆にご提言や不成約になることが増えるのだから本末転倒である。
慢性的なスタッフ不足で、エアコン売り場のスタッフ以外が接客にあたることも多い。配送設置の中でも特に難易度の高いエアコン取り付け工事を殆ど素人と言ってもいいようなスタッフが、そもそも素人である顧客と一緒に見積もりを出すのだ。そりゃあ見積もりに相違が出たって不思議はない。
どれだけ複雑そうな工事でも、いちいち本部の許可を取らなければ実地の見積もりも入れられない。夏本番前でこれなのだから今から夏が怖くて仕方がない……。

勿論、今回の事故と今職場で起こっていることが同列だとはとても思えない。
しかし、根底にあるのは日本全体に蔓延するサービスや技術に対する軽視と「安さこそ正義」という思想のように思う。
私たちの日頃享受しているものの一体「何」に金額を支払っているのか、今一度考えてほしいと思う。