高いものは極力買わない。安いものと「無料」の言葉が大好き

私はいわゆる「吝嗇家」だ。格好つけた言葉を使わずに表現するならば、私はとてつもなく「ケチ」な人間である。
家族や友人、大切な人へのプレゼントには値段関係なく、高いものでも購入してしまう。しかし、自分の欲しいものを買うときにはケチケチして安いものを買うことが多かった。

小さい頃から高いものは極力買わない。安いものと“無料”という言葉が大好きな少女だった。
高いものの値段に見合った価値なんて私には分からないし、より安く、より使いやすいものを好んでいた。
安いものを買おうという意識に固執してしまい、買い物で失敗することもしばしばあったが、「まあ、安いから仕方ない……」という言葉で済ましていた。

でもある時、“ある物”に一目ぼれをしてしまった。
「あれを買おう」と決心したからこそ、ケチケチな自分から少し変われたような気がする。

買うのを渋っていたが、他のお店を回っていて渦巻くものが

私が一目ぼれをしたのは、紫陽花がデザインされたピンキーリングだった。
ピンキーリングとは小指につける指輪のことで、小指につけると恋愛が成就するかも……といった噂がある(この噂が本当なのかは謎である)。
「恋愛成就するっていいな……」といった下心もあり、手に取ってその指輪を身に着けてみた。サイズはぴったりだった。紫陽花にはキラキラとした石がついていて、光が当たると輝きが増す。指輪のブランド紹介を見ると、全て手作りで、着色も職人さんが一つ一つ丁寧に手がけているとのことだった。

「手作りだからきっと高いだろうな……」と思いながらも、ついつい値段を見てしまった。そこに書かれていた値段は3410円だった。
「たっっっっっっっっっかい!!!!」と思わず、心の中で叫んでしまった。
手作りで、しかも一つ一つ職人さんが丹精込めて作っているのだから、3410円はむしろ安い部類に入るのかもしれない。

でも今まで、100円のハンバーガーしか食べなかった私が……。
古着屋で洋服をルンルンしながら購入する私が……。
古本屋さんで欲しい本を大人買いするこの私が……。
3410円の指輪を買うことなど、天地がひっくり返ったとしても信じられないことだった(大げさな表現かもしれないが)。それほど、自分に対してはドケチな私なのだ。
「高いなあ……」と思い、初めは買うことを渋っていた私だが、他のお店を回っているときに頭の中でぐるぐるぐると何かが渦巻いていた。

後悔せずに向き合えたのは、久しぶりだったかもしれない

「今買わないと、誰かに買われてしまうかも……」
「でも、もし無くしたら3410円が無駄になるよ……」
「でも値段以上の価値があの指輪にはある気がする……」
「いやいや、でも……」
といったように、私の頭の中では脳内会議が行われていた。

3410円の指輪を買うために脳内会議までしてしまうなんて、今となっては「あほだなあ……」と思ってしまうが、あの時の私にとってはあの指輪を買うか買わないかは自分の人生に関わっていたように思う(ここも表現がオーバーだが……)。

今まで「高いものは絶対に買わない!」と心に決めて、自分自身には常にドケチでいたのに、「あの指輪は高くても買いたい!」と思ってしまった。その理由は未だに謎である。
でも職人さんが身に着ける人のことを考えて、小さい指輪を一つ一つ作っていく姿を、私はあの指輪から連想したのかもしれない。
思いを込めて作ったものには、作り手らしさがその作品に残るように思う。だから私はその指輪を購入するに至ったのかもしれない。
ただの推測だが……。

でも、これだけは言える。
私は高い指輪を買ったが、決して後悔していない。
今まで何かと後悔する人生を送ってきたから、後悔をせずに何かに向き合えたことは久しぶりだったかもしれない。どこか新鮮な感じがする。心はとても晴れやかだ。
私はあの指輪を買う決断をして良かったと、心から思う。