「今日は寝つきが悪いな」と思う夜はないか?
眠る前に突如、苦い思い出、いじめをしてきたあの子の顔がフラッシュバックするような、そんな夜。
このまま寝ても、きっといい夢は見られないだろう。なんなら、夢の中にまで登場してきて安眠を妨げてくるかもしれない。

夜に始まるSNS巡回。まず小学校で私をいじめた女から

そんなとき、私は枕元に置いてあるスマホを手に取る。
暗闇に私のスマホ画面の液晶だけが光っているので、いかにも悪いことをしている気分になる。
SNS巡回のお時間だ。巷では「心のリストカット」と言われているアレ。

決めている巡回コースがある。
まず、小学校のときにいじめてきた女。彼女のアカウントはFacebookで確認できる。
プロフィール画面で現在の容姿を確認する。彼女からいじめられて泣いているとき、母親から「人にいじめをするような人はブスになるよ」という励ましをもらった。
プロフィール画面でこの顔を見るたびにせいせいした気持ちになる。現在はシングルマザーをしていて、彼女とそっくりな息子がいる。息子があれをした、これをしたと喜ぶ投稿が多い。

続いて、大学のときに付き合っていた男の元カノ。
私が彼と付き合ってすぐに連絡をとってきて、「あいつはやめたほうがいい」とアドバイスをしてきながら、陰で彼と連絡をしてあらゆる私の噂を吹聴したという。おかげで、彼と付き合ってきた期間の半分以上が、彼女からの嫌がらせというおまけが付いてくるのだった。
彼女は自己顕示欲が強く、キラキラとしたOLに擬態してツイッターをしており、一般人にしては多いフォロワーを持っているが、私はそのアカウントは見ていない。彼女の裏アカウントを知っているからだ。
フォロワーが5人しかいない卵アイコンには、今日も誰かに愛されなかったことや、セフレに抱かれても満たされないという思いが綴られている。

今、何をしているか気になって調べてしまう同級生の女優

最後に、高校の同級生だった女優のツイッターを調べる。
顔は可愛いゆえに男子生徒にも先生にも好かれていて、色々な人の好意を上手に扱うタイプだった。自分が価値があることを知っていて、自分以外の女性はすべてモブとして、価値がないように扱ってくる子だった。

直接なにかをされたわけではないが、こういう人が成功してしまうと私はやりきれなくなってしまう。突然タイムラインに流れてくるのは心臓に悪いからブロックしているが、時々、「今何をしているのか」が気になる。
最近は出演作には恵まれていないようだが、ニッチな趣味を持ち、ニッチな界隈でエッセイを書いている。努力が涙ぐましい。
もしかしたら彼女は女優よりも、美人な一般企業のOLとして生きるほうが向いているのかもしれないのに、頑張っているんだなあと思った。

もう二度と会わない彼女たちも、人生は続いているのだと実感

一通りのパトロールが終わった後、スマホを閉じ、布団の中で目を瞑る。
「不幸になってほしい」と思う気持ちがないわけではない。でも、どちらかと言えば嫌いだった、私とは分かり合えなかった彼女たちの人生の一部を垣間見て、それぞれの人生を生きているのだと実感する。私ともう二度と会わない彼女たちも、人生は続いているのだと実感する。
あの頃理解できなかった心の中のわだかまりが、少し解けてきた。

彼女たちにも眠れない夜があるのだろう。そう思うと、「今日も強く生きてて偉い!私もあなたたちも偉い!」と、友愛の気持ちまで抱くようになった。
彼女たちも今日を生きていることを確認して、過去の思い出を断ち切って、明日も頑張ろうと思って眠りにつく。