夜の考え事は危険。思い出すのは、変えることのできないあの日

「夜 眠れる 音楽」で検索。
「夜 不安 なぜ」で検索。
「夜 眠れない 対処法」で検索。
検索結果はだいたいどれも同じ。
深呼吸だの森の音だの、落ち着いて呼吸を深くしましょう、のアドバイス。
とりあえず深呼吸。
5秒吸って5秒吐く。
体が沈む意識をもちつつまた深呼吸。

眠れない。無駄な努力。
深呼吸は続く。
思考も変わらず続く。

夜の考え事は危険だ。
どうしても嫌なことばかり思い出してしまう。
今さら変えることのできない過去を嘆いて時間が過ぎる。

なぜ、あのとき。
なぜ、私が。
なぜ、こんなに。
辛い思いをしなくちゃならなかったのか。
眠れない夜、私が思い出すのは、弓道部最後の大会。
なぜ。どうして。こんなにも。
苦しい。

弓道漬けの高校生活。女子部長となって迎えた最後の大会

高校生になって憧れの弓道部に入った。
ずっとずっとやりたかった部活。
コツコツ練習する弓道は私に合っていたらしく、1年生の終わり頃からレギュラー入り、2年生では地方大会で記録を残すほどに成長した。
そして、3年生。女子部長になった。
部員同士のゴタゴタや後輩の世話、練習内容の考案など忙しかった。
けれど自分の練習は欠かさなかった。

朝、昼休み、部活終わり。
私の高校生活は弓道漬けだった。
そんな中迎えた最後の大会。

1日目団体・個人予選。
2日目個人決勝。
3日目団体決勝。
1日目の時点で少し不調だった。
なんとか無理やり個人決勝に進出。
団体戦では比較的安定していた。

最後の団体戦で私とチームの集大成を見せるはずだったのに

2日目、個人決勝。1回戦敗退。
もしかして、を期待していたけれどやっぱりダメだった。
そりゃそうだよね。でもまだ私には団体戦がある。このために頑張ってきた。男子と比べて弱いと言われ続けてきた女子をここまで強くしたんだ。私が強くしたんだ。このチームで戦える。
女子部長として。チームリーダーとして。
チームの協調を第一に考えた。
みんなが力を出し切れるように。
試合を楽しいって思ってもらえるように。
だから自分の練習は空いてる時間に。
不平も不満も飲み込んでひたすら。
チームが強くなれるように。
だから明日は大丈夫。このチームで戦う。
たとえ勝てなくても、自分の力を出し切れればきっといい思い出になる。集大成を見せつけるんだ。私と、チームの。
気合は充分だった。楽しみすらあった。
まさか自分が出れなくなるなんて思いもしなかった。

3日目。
試合前練習で、矢が明後日の方向にしか飛ばなかった。
自分では本番で上手くいく射だった。
ただ、顧問からは交代を命じられた。

レギュラーになってから初めて降ろされた。
よりによって最後の大会で。
努力は報われると思ってた。
だから勝ち進んでいった先で、また出してもらえると信じてた。
有終の美を飾ることができると信じてた。
でも、彼女たちは負けた。
あっさりと。淡々と。他の高校と同じように。
高校最後の大会。
私は一度も弓を引くことなく、3年間の集大成を終えた。

引退後の感謝も何も頭に残らない。仲間も顧問も社会も呪った

学校に戻ってから、弓道の道具を全部ゴミ箱に入れた。
見たくなかった。信じたくなかった。
3年間がこんなにあっさりと、何も残すことなく終わるなんて。
あんなに大事にしていた道具たちを、一つ一つゴミ箱に入れていく。
自分の努力がなんの意味もなかったことを思い知らせるように。

家に帰ってから母に言われた言葉。
「あんた今日、何しに行ったの」
私が眠れない夜、思い出すのは必ずこの言葉。

レギュラーにはたくさん謝られた。
引退後には色んな人にたくさん感謝された。
でもなにも頭に残らなかった。
言われるたびに思ってた。
じゃあなんで私にはなにも残らなかったの?
あんなに頑張ったのに。
あんなに辛い思いをしたのに。
仲間を、顧問を、社会を、そして世界を呪った。

あのとき学んだのは「努力は必ずしも報われない」社会の仕組み

その呪いはまだ私に残っているみたいで、夜に湧き出てくる。
「努力は必ずしも報われるわけではない」
私があのとき学んだ、社会の仕組み。
あのとき。あと一射。もっと練習していたら。
後悔は絶えない。

「後悔 消し方」で検索。
「辛い思い出 乗り越え方」で検索。
「トラウマ 涙」で検索。
5秒吸って5秒吐く。
あのとき。あと一射。あと一立。
私の後悔は消えない。
最後の大会で外から見ていたチームの姿が頭から離れない。
眠れない。深呼吸。無駄な努力。
そうしてまた呪いたくなる朝が来る。