私の苦手なもの、その1つにニュース速報の音がある。
ぼーっとテレビを見ている時に、その穏やかな空気を一瞬にして壊す不協和音。そして、淡々とした機械的な文章。
たまにとんでもなく物騒な内容が書いてある時は、正直ぞっとする。幼い頃から、そのニュース速報にどぎまぎさせられてきたため、すっかり苦手になってしまった。
しかし、あるニュースをきっかけに、別の方面で苦手になってしまった。それは、お笑い芸人の志村けん氏が亡くなったニュースだ。
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ニュース番組中に、ニュース速報が流れた瞬間、「また不謹慎なテロップを誰かが出したのだろうか?」と思った。しかし、急に画面が切り替わり、表情を曇らせたニュースキャスターが彼の訃報を伝えていた。スタジオにいたほかの芸能人は涙を流して悲しんでいた。
無理やりにでも気分転換をしたかったのだろうか、何気なく、SNSのタイムラインを見る。そこには、友人からの驚きと悲しみのツイートで埋め尽くされていた。そこで、私は、志村けん氏が亡くなった事実を実感した。
幼い頃、「志村けんのバカ殿様」や「天才!志村どうぶつ園」をはじめとするバラエティー番組は、よく友人との間で話題になっていた。
友人からビデオを見せてもらい、たくさん笑ってその分たくさん嫌なことを忘れられた。バカ殿がいたずらをして、巻き込まれる家来のリアクションに毎度腹を抱えて笑っていた。
でも、それはもう二度と見ることが出来ないのだ。
知り合いでも何でもない赤の他人。でも、楽しかった思い出には必ず出てくる人物だ。子供時代のささやかな楽しみが失われた感覚であった。
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その後も、多くのニュース速報を経験した。コロナ禍で、ネットに触れる機会が増えたためか、芸能人の死のニュースに触れる機会が多くなった。
つい最近も、ダチョウ倶楽部の上島竜兵氏が亡くなった。死因は自殺だ。テレビからあんなに皆に笑いを届けていたのに。リアクション芸をいつまでも見られると思ったのに。
友達と一緒に、どうぞどうぞと怒った時に飛び上がる芸をやったことをふと思い出した。知っている芸能人がどんどんいなくなる。楽しかった記憶がその瞬間、固まった思い出になってしまう。
最近の私は、ニュース速報を見る度に、今度は誰が亡くなったのだろうかと不安になる。自殺のニュースは特に精神にくる。二度とその人の新しい作品を見ることが出来ないのはさみしいこと、でも、それ以上に自殺以外の選択肢はなかったのかと考えてしまう。
SNSで匿名で情報が飛び交う最近は、特に芸能人への誹謗中傷が絶えない。好きな芸能人について、かつてはただ純粋に素敵だなと思っていたはずが、今では噂や誹謗中傷をはね返して、とにかく生きていて欲しいと思ってしまう。好きな芸能人を見ることは楽しみを得る反面、彼ら彼女らの不透明な未来を実感する時間になった。
ニュース速報、やっぱりまだまだ克服できない。不意に流れるニュース速報が怖くて、おちゃらけた動画サイトに逃げてしまう。ニュース速報が甲子園の優勝校が決まるような前向きな内容で埋め尽くされればいいのに。少なくとも、誰かの死を連想させる内容ではなくなるくらいに。