引っ越し2日目。梅雨と呼ばれる季節の頃。
じめじめとした空気が重たいけれど、太陽がいきいきしてくるこの季節が、いつの頃からか好きになっていた。ずっと夏が嫌いだったのに、不思議なこともある。

一人ぼっちの家で、一人で寝て、そして一人で起きる初めての朝。
あんまり寂しいとかはないけれど、やっぱり家で眠るほど深い睡眠はできていない気がして、頭がなんだかすっきりしない。

朝9時にネット開通の人が来て、人と話す。そのあとは段ボールを片づけ、台所や洗面所、トイレ、あらゆる配管の周りに防虫マットを貼り付ける。眠いので、布団にダイブしてみる。

そうしていると両親が来てくれた。机と衣装ケースとともに。時刻は正午の少し前。バーミヤンへ行って天津飯を食べた。
母はレタスチャーハンを、父は冷やし麺を同じく食べた。ご馳走してくれて、助かる、と思うくらいにはまだお金がない。バーミヤンってこんなにおいしかったのか、と感動し、思えば3人で食事をしたことなんて、片手で数えるくらいしかないなどと過去を思っていた。

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電気屋とリサイクルショップをはしごして、1万円の電子レンジを手に入れる。外国人の店員さんがやさしくしてくれたから、展示品の、傷が入っているものだったけれど、これでいいやと思えた。
育った国ではない国で、なじんだ言葉ではない言葉の中で、ちゃんと仕事をして生活をしている。本当に、すごいよなあと思う。

やることが終わったら、両親は夕方前に帰ってしまった。母はこっそり少し泣いていたのが見えた。
大切に思ってくれる人がいることは、幸せだと思う。きっと出ていくほうの何倍も、見送るほうが寂しくて心配なのは、どうしようもないけれど、しょうがないことだけれど、やっぱり心を揺さぶることに変わりはない。

入れ違いで、あーが来た。同い年の妹。
迎えに行って、合流して、駅ビルの中をわけもなく徘徊し、そういえば1枚もないと気がついて下着を買い、スーパーで買い物をする。内訳は、チョコレートとパスタソースと、玉ねぎと牛と豚のあいびき肉に、卵。
家へ帰って洗濯して、お米を研いで、ハンバーグはあーが作ってくれた。いつもと同じように、だらだらして、ご飯を食べておいしいねって話をする。

1日中話し相手がいて、なんだか嬉しい。
明日も休みならいいのにと思いながら、YouTubeを見たり、おすすめの音楽を紹介しあったり、もう忘れちゃった話を語り合った。

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ハンバーグが、とてもおいしかったけれど、洗い物が多いからしばらく作らないだろうな。
ピーターラビットのお茶碗で、2人で23歳になって床でご飯を食べていて、なんだか感慨深いなと思ったことを思い出す。

小学生の時に使っていたけれど、成長とともに小さくなって、棚の肥やしになって、記憶の端に追いやられていたお茶碗。
新しいものを買うとお金がかかるからと、実家から、せっかくなので2つまとめて持ってきたお茶碗。

10年以上ぶりに、引っ越しをした節目の日の次の日に、2人でまた、あの時のお茶碗を囲んでいました。

一人暮らし2日目。今からちょうど1年前。忘れてしまいそうなくらい、何事も起きなかったけれど、確かに何かを選んで、そして生きていた1日。私の忘れたくない1日。