小学4年生から5年生になるときに、私は転校を経験した。
最初は東京都から愛知県に行くのに、何も気構えしていなかった。
前の学校でも上手くやれたんだから、ここでも上手くやれるだろう。友達なんか簡単に作れるだろう。そう本気で思っていた。
転校先で仲良くなったのは、クラスの中心メンバーではなく地味な子
しかし、そんな期待は少しずつ、確実に破壊された。
そこで、私はSと仲良くなった。Sは真面目で、クラス内でも目立たないような地味な子だった。休み時間には一緒に教室で話すことが多かった。
いわゆる、教室の中心メンバーとは、仲がよくも悪くもなく、関わらないという選択肢をとっていた。私は、それでよかった。
転校したら、こんなものだろうくらいという感覚だった。
しかし、夏休みが明けた始業式の日、彼女の格好は前とはちがった。
派手な服装をし、「イメチェンしたんだ~」と多くの人に言いふらしていた。
それが、今まで中心にいた女子グループの気に障ったのだろう。
明らかにハブられているように思えた。私は耐えようと思い、何も抵抗しなかった。
しかし、Sは違った。それに対して、抵抗をした。
帰りの会の前にランドセルをとれないように、相手のロッカーの前に居座る。
相手のグループがトイレにいたら、そこには行かない。
もちろん、直接話すことなんてしない。
そんなことが少しずつエスカレートしていった。
対立する両者の間で伝言役になった私はからかわれ、嫌がらせされるように
そこで使われたのが私だった。
最初は相手のグループから、「ちょっとランドセル取りたいから、それとなくSをどかして欲しい」と言われた。
私はSをトイレまで連れて行き、事なきを得た。
しかし、それが続くと、Sも私が伝言のようなことをしたことに気づいたようだった。
そして、Sも同じように私を使った。
そして、Sと相手グループとの伝言板に私はなった。
相手グループやSから文句を言われることも少なくはなかったが、私は中学受験することが決まっていたので、毎日のように「あと○ヶ月でこの人たちとは別れる」「あと○ヶ月の辛抱」と自分に言い聞かせていた。
女子の間でそんなことをしていると、男子も薄々気づき始めてくる。
使われているこいつなら、何してもいいのではないか?ということにクラス内の男子が気づき始めた。
そして、男子からもからかわれるようになった。
女子の陰湿なものも辛いと思っていたが、男子の直接的なからかいも辛かった。
自分のお気に入りの祖母から買ってもらった筆箱を、開けた状態で投げられた。
いろんな所に自分のペンや鉛筆が飛んでいった。このおかげで何本もペンや鉛筆をなくした。
終いには、使って3ヶ月もしない間に、チャックも壊れ、使い物にならなくなった。
また、小学生でよくある菌扱いもされた。
自分の机は誰も運ばない。給食をつぐのも嫌がられた。
正直、耐えられなくなった私は、意を決して親に打ち明けた。
しかし、親の返答はこの一言だけだった。
「小学生にはよくある事だよ」
このとき、親に怒りを覚えた一方で、いくら説明しても無駄なんだと私は諦めることを決めた。
あの出来事から上手く進めないのなら、この経験と共に生きていこう
時は流れて、私立の中学に入学した私には、こんな面倒な人間関係はなかった。
普通に友達もできたし、からかわれることもなくなった。
こんな辛い出来事、忘れた方がマシだ。
忘れて、なかったことにして、前に進もう。
中学に入学する前にそう決めていた。
それでも、自分の心のどこかに、どうせ私は何もできやしないんだ、という劣等感が強くこびりついていた。
もしかしたら、自分の知らない間に昔の自分のような思いをさせてしまうのではないか、そう考えることも少なくなかった。
上手く、前に進めなかった。
だから決めた。
この経験と共に生きていこう。
この経験も私の人生の一部と受け入れることで、ちゃんと自分を受容して生きていこう。
忘れてしまいたくて、忘れたくない、私の人生の一部。