「私たち、切っても切れない縁だから」
そう言って、あの子は笑った。
沈みゆく夕陽は、私が今まで生きてきた中で、いちばん輝いていた。
あの子の微笑みと、それを包み込む夕の情景。あれは、何歳になってもきっと私の記憶から消えてくれないことだろう。
15歳の葛藤。私とあの子
――遡ること数年前。私たちはまだ15歳で、いろいろと敏感な狭い世界で、それなりに忙しい日々を送っていた。
中学最後の年。入学したての頃は身に合わなかった制服に「着られている感」もなくなり、受験勉強に追われ、放課後は吹奏楽部で合奏。帰宅すれば、些細なことで親に反抗して、泣き腫らしたまま眠りについていた。
あの子は、やらせればほとんどのことをそつなくこなす子だった。勉強、運動はもちろん、先生方からの信頼も厚く、生徒会副会長に推薦されて、部活でも部長を務めていた。
比べて私は、3年間続けているクラリネットは上達する気配はないし、友達関係でよく揉め事をおこして顧問の先生にも気に入られることは無かった。
勉強だけは、あの子と張り合うくらいには少し出来た。周りからは私も優等生に見えていたらしいが、あの頃は自分が大嫌いだった。
そしていつも私の前にはあの子がいた。
越えられない、隣に立つこともできているのか分からない。あの子からしたら、私は皆と同じ1人の「友達」なんだって。
でも私からしたら、あの子は「憧れ」で、そして、幼いながらに少しの独占欲も抱いていたのだと思う。だから、他の子とあの子が一緒に帰ったりしていると、とてつもなく泣きたくなったんだろう。
一度だけの喧嘩。ぶつけた本音。隠した感情
そんなぐちゃぐちゃした私の勝手な感情のせいで、1度だけ喧嘩したことがある。といっても、気の弱い私に言い争いなど出来るわけがなく、誰かが勝手に流した根も葉もない噂に踊らされて、泣きながらあの子に電話した。
「ひどい。信じてたのに。本当は私のことが嫌いなんでしょ」
ひどいのは私だ。あの子のことをちっとも信じてあげられなかった。電話越しで、あの子は何も言わず、ただ寂しそうに短く返事をするだけだった。
それからどのくらい後かは覚えていないけれど、私たちは自然に、また一緒に帰るような仲に戻っていた。
あの子の隣に立つと、なんだか――まるで恋のような感情を抱くことが時々あった。今思えば、本当にそうだったのかもしれない。
そんな時は決まって、私の口数は少なくなり、あの子が太陽のような笑顔でたくさん私に語りかけてくれていた。綺麗な声で、歌も歌ってくれた。本当にあの声が好きだった。
そして、思い出の夕陽に照らされて今も消えない、あの子の言葉
私は、どうしてこんなに素敵な子が、私の隣を歩いてくれるのか疑問に思うことも多かった。勝手に疑い、傷つけてしまったこともあるというのに。
ある日の帰り道、私は思い切って切り出した。
「ねぇ、どうして、こんな私と。あなたの事を信じられなかったこともあるのに、こんな私と一緒に居てくれるの?」
――気づけば、とても綺麗な夕陽が広がっていた。
あの子は、それをバックに、まっすぐ私に伝えてくれた。
まるで主演女優のように、恥ずかしがることもなく。
「だって私たち、」
「切っても切れない縁だから!」
今も時々、夢に見る、15歳の夕の記憶、私の絶対に「忘れたくないこと」。
叶うことならば、もう一度、あなたと一緒にあの夕陽を。