忘れたくない。
竹林を吹き渉涼風の匂いや川のせせらぎ、古都の町並み、あなたと初めて会って歩いた京都の思い出。

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初めてその人の存在を観測したのは3月、私が配信をしていたアプリの中であった。この広い宇宙の中に、これほどまでにウィットに富んで、博識な人がいるものかと感嘆したのが始めである。
配信の中で、私がエジプトに旅行したいと言ったら、その人は、 
「スフィンクスの目線の先にケンタッキーがあるよね」
「最近ピザハットもできたらしい」
という、なんとも面白い情報をコメントしてくれたのだった。
すぐさまそのコメントを読み上げ、リスナーの人々と一緒にエジプト修学旅行をできたら楽しそうだよね、という話になった。
「スフィンクスの目線の先のケンタッキーでチキンをテイクアウトして、ピザもテイクアウトして、しかるのちピラミッドを見ながらチキンとピザを食べようね!……あ、でも私地図が読めないや」
絶望的に地図が読めない私が落胆すると、その面白いコメントの人が、自分は地図を読めると仰るではないか。引率係ができた、と皆で喜んだ。

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この辺で配信は終了したのであるが、その人との交流は続き、4月には、
「エジプトは遠いけれど京都くらいなら行けそうだよね。そうだ、京都、行こう」
という話になった。私が以前、「着物を着て京都の竹林に行きたい」と呟いたことを覚えてくれていたらしい。

すぐさま話は纏まって、「5月のGW明け、晴れた日の平日に京都へ行こう」と日程が決まった。
「着物を着て天龍寺の竹林に行こう」
「私の好きな森見登美彦さんの聖地巡礼もしよう」
「美味しい和菓子も食べようね」
そんな話を交えつつ、毎日のように話していたら、いつしか私はその人に恋をしていた。この人の隣にいるのは私がいい、と思うようになっていたのだった。

そこからの日々は目眩しかった。
結果的に嬉しいことに、晴れてその人とお付き合いするに至ったし、(写真やビデオ通話でお互いの顔は知っていたけれど)初めて会うのだから最高の自分で会うために美容に気を使いまくったし、京都旅行までの3週間はあっという間だった。

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やっと会えた旅行当日、新幹線の座席で待っていてくれたその人は綺麗だった。顔を見て、ようやく居るべき人と一緒にいられた、と安堵した。毎日電話をしていたからかもしれないけれど、初めて会った気なんて少しもしなかった。
京都駅に着いて、駅からすぐの着物屋さんで真っ赤な着物をレンタルした。その人は緑の着物を纏って凛としていた。私はその人の知性と品性に恋をしたわけだけれど、見た目のデザインも美しい人だと改めて恋した。

大好きな人と、着物を着て京都の町を歩く。美味しいものを食べて、綺麗な寺院の庭園を眺めて、竹林で写真を撮って、鴨川の飛び石を伝って。こんな幸せなことはまたとない。
鴨川の橋の上で、見知らぬ老嬢からも、着物の似合う素敵なペアだと嬉しいお褒めの言葉をかけていただいた。世界でいちばん幸せな2人だと思った。この瞬間を、忘れたくない。絶対に忘れない。

これから、私たちはもっとたくさんの思い出を紡いでゆくだろう。
そのすべての瞬間一つ一つを大切にして、そのときの気持ちを忘れたくない。愛していたい。そんなことを思った、初めての旅行である。