いつもの通勤電車で、急に「死ぬんじゃないか」と不安になった。
動悸が止まらず、冷や汗が背中を伝う。頭の中がぐるぐるして、真っ白になった。
その日から、満員電車には乗れなくなった。
◎ ◎
私は、1週間前に転職したばかりだった。
新しい人間関係、新しい通勤経路、新しい仕事内容。
ついていけるように、必死にやっていたが、電車には乗れなかった。
通勤できなくなった私は、1週間ほど在宅勤務をしていたが、ついに社長に「クビ」を言い渡された。転職して2週間が経過したころだった。
社会人生活5年目。
大きく休むことなく、毎日会社には真面目に出社していたし、仕事が終わらない日は深夜まで残業することもあった。
日付を超えて帰宅する日も少なくなかったし、そういう生活が自分にはできるタイプだと思っていた。
新しい会社は残業も少なく、人間関係も全く悪くなかった。
だけど、急に何もかも全部が怖くなった。
精神科に通うことになり、私は「全般性不安障害・パニック障害」と診断された。
独身で、無職。
働くこともできなくて、情けなくて、一人で泣いた。
◎ ◎
仕事に行かなくてよくなった日の1日目は、ベッドの上から一歩も動けずにいた。
頑張れない自分を責めた。外に出られなかった。
周りの目や、音や、声が怖くて怖くて、一日のうちの大半は布団の中にいることが多かった。
夜も薬がないと眠れず、薬を飲むと一日中ぼーっとしてしまう日が続いた。
ずっとベッドの上で過ごす日は楽だったけど、いつか空っぽになってしまうのではないかと思うと、怖かった。
暗い布団の中で、SNSを開いた。
会社員をしながら、月に1回だけ細々と続けていた「グラビアアイドル」の活動用のSNS。
輝いているほかのグラドルさんたちの写真を見て、私ももっと輝きたくなった。
本当は、自分だって輝きたい。
昔から応援してくれていたファンの方たちに、今の状況を打ち明けた。
「これまで真面目にずっと頑張ってきたから、休んでいいんだよ!」
「好きなことをする期間にして、のんびり過ごそう」
温かい言葉をもらえて、「私は、これまで頑張ってきたのか」と受け入れることができた。
これまで、世間体を気にして、「会社に勤めなければいけない」と思っていたけれど、人生一回きりなんだし、自分の好きな「グラビア活動」に力を入れることにした。
◎ ◎
こうして私は、26歳で、会社員からグラビアアイドルになった。
自分自身も、ファンの方を照らせるようなキラキラした存在になりたい。
長年、小さい規模でしか活動してなかった私を支えてくれていたファンの方に恩返しがしたい。
今まで、自分のことを受け入れるのが苦手だった。素直に褒められなかった。
でも、ちょっとずつ、この機会に変わっていくチャンスだとも思った。
この活動をしていると、自分のことをちょっとだけ「好き」と思えるようになったから。
外に出るのはまだ怖いけど、病院で処方された薬を飲んで、家の近くを散歩することからスタートした。
「今日は買い物に行けた」
「今日は病院に行けた」
「今日はちゃんとご飯を作れた」
ひとつずつ、着実に自分の中の「できた」を大事にした。
自分だけでほめられないときは、ファンの方に助けを求めた。
「すごいね!」
「頑張ったね!」
優しい言葉をもらって、自分自身を認めてあげるようにした。
◎ ◎
夜一人になった時、不安でパニックの症状が出てしまう日もある、
マンションの部屋の前で倒れて救急車が来たこともある。
だけど、私はファンの方に支えられ、これからもグラビア活動を続けたい。
仕事に行けなくて、ずっと家で引きこもっていることは卒業したい。
小さいけど、グラビアの活動を通して、少しずつ挑戦していく。
怖かった電車も、満員でなければ乗れるようになった。
怖かった人混みも、衣装に高いヒールでいれば平気になった。
怖かった周りの目や声は、今もまだ気になるけれど。
私にとって、「グラビア」の活動は、自分自身に「自信」を与えてくれる大事なもの。
これからも私は、グラビアアイドルをしながら、パニック障害と生きていく。