わくわくしながら目覚める朝。ルームメイトの香水の匂い。寮を出て教室に向かうまでの冷たい空気。
私は思い出にあまり浸る方ではないけれど、留学していた頃のことを思い出すのはいつでも楽しい。
毎朝、広いキャンパスを横切るリスを目で追って歩きながら、自分でも怖いくらい今の私は幸せだな~と思っていた。
◎ ◎
そんな風に盛大に幸せを感じていたのは、日本での満員電車通学や夜遅くまでのバイトから解放されて、勉強もリフレッシュのジム通いも思う存分、気の合う友人たちとの時間も好きなだけだったからだけではない気がする。
1年前にはどんなところか全く知らなかった土地に一人で来て、英語で生活するのも勉強するのも初めてで、家族と離れて暮らすのも初めてで、元々人見知りをする方だったけれど、そんなこと言っていられないくらい初めての人と会う機会ばっかりで、大げさだけれど毎日が小さな冒険の連続だった。その小さな挑戦をクリアしていく度に自分が成長しているようで、楽しかったのだと思う。
講義で頑張って発言したのに聞き取ってもらえなかったり、内容にも英語にもついていけなくてクラスメイトから変な目で見られたり、今思い出しても恥ずかしいこともあったのに、思い出すたびに良い感情になるのは、あの時の私の頑張りが今の私を作っていると感じるからだとも思う。
特に、仲の良かった友人に言われた言葉はすっと自分に入ってきて、今でも覚えている。
「コンフォートゾーンを出ないと。出ないと成長できない。Minoriにとっては今がコンフォートゾーンを出てる時だね」
◎ ◎
あれから4年。社会人3年目。ふと、今の自分は、4年後の自分が思い出して嬉しくなるような生き方をしているのか心配になる。
今の仕事が楽なのではない。むしろ、自分にとっては挑戦だと思う。
勉強しても勉強しても終わりが見えないシステムを理解して、資料を作って、クライアントに説明して。分からなかったものを理解できた時の達成感や先輩に褒められた時は、本当に嬉しい。でもこれで良いのかと思うときがある。
始めは、与えられた仕事をまずやってみよう、やってみてから好きじゃなかったら別の仕事をしようと思っていた。
でもやってみたら、あまり好きじゃないけど止めようとも思わない自分がいる。今は好きじゃないけれど、やっていくうちに面白くなってくるかもしれないし、何しろ専門知識を身につけられれば、日本でも海外でも仕事のチャンスはある。
こうやって粘り強くやり続けるのは私の長所だけど、目の前のことをこなすのにいっぱいいっぱいで、自分が本当にやりたいことに真剣に向き合わずに逃げているだけではないかと思う。
◎ ◎
就職した時は人生80年の内、10年くらいは海外で生活したいと思っていた。だから会社でもグローバル案件を選んできたし、それなりにビジネス英語とか、海外メンバーとのコミュニケーション方法も学んできた。
でも最近は、たまにSNSで流れてくる海外就職やワーキングホリデーの広告を目にしては、いいなぁと思うときはあるけれど、自分から積極的に調べたり、経験者の話を聞いたりしようとはしていない。
目の前のタスクをこなすのに忙しいことと、今の仕事でまずは専門性を磨けば良いということを理由に、変化を求めない自分がいる。今の仕事が楽なわけではないから、別にコンフォートではないけれど、でもある意味先が予想できるコンフォートゾーンの中から出たくなくなってしまったのかも。
正直、このエッセイを書いても決心はつかないけれど、今の私にはあの頃のわくわく感が必要だ。