大事マンブラザーズバンド「それが大事」は、わたしが生まれるよりも前にリリースされた曲であり、言うなればお兄さんである。
"ブラザーズ"というだけある。一人だけじゃない、何人もいる感じがなお頼もしい。

この歌は、負けそうで、投げ出したくて、逃げ出したくて、誰のことも信じられなくて、駄目になってしまいそうだったわたしの背中を押してくれた。
押してくれたというよりは、支えてくれていた、の方が正しいかもしれない。

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新卒で入った会社は、上司がダメダメだった。
虚言とも言える上司の行動はわたしを振り回した。
さらに、先輩方もなんとなく優しくなくて、OJTなるものをまともにやってくれないくせに、ぽんぽん仕事を投げてくるような状態だった。

出来なかったからといって特別怒られることはなかったが、出来ないことに直面するのは辛かった。
そのせいでどんどん自己肯定感は下がるし、仕事を任されることも、自分から仕事を探すことも辛くなった。
次第に、職場に行くこと自体が怖くなって、嫌で、苦痛だった。
それでも仕事をしなければ生きていくことはできなくて、わたしの心はどんどんすり減っていった。

そのうち、わたしと同じように心をすり減らした同期が休職して、辛いのはわたしだけじゃなかったんだと安堵したと同時に、それだけ辛いことを強いられる場所なのだと痛感した。

そうやって日常と心と身体を消費していく中で出会ったのが、「それが大事」だった。
90年代の邦楽は割と好きで、有名どころを摘んで聞いていることが多く、この歌は昔から知っていたけれど、ちゃんと聞いたのはこの時が初めてだった。

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この歌の素晴らしいところは、"押しつけてこない"というところである。
ZARDの「負けないで」とか。
岡本真夜の「TOMORROW」とか。
DREAMS COME TRUEの「何度でも」とか。
ああいう押しつけがない(断じて、これらの歌が悪いとかダメとか、そういう話ではない)。
わたしだって「負けたくない」し、「最後まで走り抜けたい」けれど、ちょっと休みたいときだってあるし、「涙の数だけ強くなれる」なら今頃最強だし、そもそも「1万回」も諦めないという前提で話を進められても困るのだ。

その点、「それが大事」は、ただ、それが大事だと言っているだけなのである。
それを座右の銘的に掲げるのも良し、別にスルーしても良し、ただ、それが大事というだけなのである。
そういう歌なのだ。

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もう一つすごいのが、この歌、6割くらいずっと、「それが大事」と言っているだけなのである。
つまり、それが結構大事、ということなのだろう。

とにかくそんなに大事なのに、こちらには決して押し付けてこない。
ただ、わたしの隣で「それが大事なんよ〜」と言っているだけ。
これを遠回しに押し付けてきている!と感じる人もいるのだろう。

だが、わたしにとっては、ひさびさに飲みに行った友達が、「それが大事なんだって〜」と言ってレモンサワーを煽りながらけらけら笑っていただけ、という感覚に近かった。
だからこそ、「なるほど、それが大事なのか。それを大事にして生きてみればいいのか」と腑に落ちた。

だから、今わたしは「駄目になりそうな時」だ、と自分の状況を俯瞰して見ることができた。
「負けるもんか」と「投げ出してやるもんか」と「逃げ出したりするもんか」と奮起することができた。
そして、自分を信じ直すことができた。「信じ抜こう」と思うことができた。

一時、毎日のように聞いていたおかげで、Apple musicの「あなたがその年に一番よく聞いた楽曲プレイリスト」にランクインしていたくらいである。
最近はしばらく聞いていないのだが、また、駄目になりそうな時に、わたしはこの歌を聞くだろう。
そしてこの兄貴たちに背中を押してもらうだろう。