67.7キロ。
2021年11月の初め、通院している心療内科の診察前の体重測定で出た体重である。
今までの人生でそこまで太っていたことがなかったので、その数字を見て診察前に少し暗い気持ちになっていた。
2月頃から体調を崩し、ようやく少しずつ快方に向かっていた時期である。そしてその日の診察で、先生から「体力はなんぼあってもいいからね」とスポーツジムにでも行って、運動することを勧められた。翌日には、さっそく家の近所にあるスポーツジムに入会の手続きに行って、そこから私の運動生活が始まっていった。

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最初は、軽い筋トレのメニューを組んでもらって、2日に1度のペースで通っていたのだけれど、少しずつスタジオでのレッスンなどにも参加し、どれが自分に合っているのか探すようになった。
「筋肉は裏切らない」とはよく言ったもので、ずっとカチカチに凝り固まっていた身体は明らかに柔らかくなり、筋肉はみるみるついてくるようになった。そしてしばらくすると、自分にとってベストなスケジュールもわかるようになった。
週に3回のトランポリンのレッスンに、日曜日はグループレッスンでハードめの筋トレ。合間の日に軽く筋トレか、友人に誘われて行くようになったホットヨガで汗を流す。

身体がどんどん絞られていくと、自然と食生活も変化するようになった。
平日の昼食と夕食は、白米をオートミールに置き換え、適当に済ませていた朝食は、トレーナーさんに推奨の納豆ご飯に。甘いものは昼ごはんの後に一口だけにして、スナック菓子もほとんど口にしなかった。
そして、月に1キロのペースで体重も減っていった。

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ダイエットと同時進行で就職活動と婚活を行ない、3月には休学していた大学院を中途退学した。そしてマイナス7キロに突入した頃、就職先が決まって急に社会人になった。大好きだったファッションブランドの販売員である。
驚くべきことに配属されたのはメンズのラインで、職場の先輩は全員が男性だった。中高女子校で、ほとんど女性ばかりの空間で生活していた私にとっては、ただただ戸惑いの毎日だったけれど、職場の先輩はみんな親切で、可愛がってくれる人たちばかりだった。
そこで私は人生で初めて、紅一点で男性にチヤホヤされる毎日を送っている。

働き始めてからさらに2キロ減って目標にしていたマイナス9キロを達成し、今は58キロ台をキープしている。
今の私は、客観的にどんな風に見えるのだろう。
母には「痩せて綺麗になった」と言われるし、他人から聞く私の印象は、ダイエット開始前とまるで違う。

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綺麗、とは、一体どのようなものなんだろう。
確かに洋服はサイズダウンし、なにを着てもほとんど似合うようになった。鏡に映る自分の体はすらっとしているし、顔のむくみや歪みもほとんど気にならなくなった。太ももの間に隙間さえできるようになったし、男性から女性扱いをされるようになった。
そしてその時にふと思うのは、もし私がダイエットをしていなかったら、就職先は決まっていたのだろうか、この男性は今のように私と接していたのだろうか、ということだった。

痩せたとしても、中身は27年間一緒にいる私以外の誰でもない。相変わらず自己評価は低いし、無防備な処女である。それに本来の目標が健康のためであって、別に綺麗になりたくてダイエットをしたわけではない。
しかし、鏡を見てうんざりすることもなくなれば、色黒の肌も前より気にならなくなった。今の私が綺麗なのかはさておき、ダイエットは健康的な生活を送る非常に良いきっかけになった。無駄な贅肉が落ちて軽くなった私の体と一緒に、心まで軽くなった気分だ。
私の人生の第2章はどんなものになるのか、今は全く想像できないけれど、それはきっと良い意味で軽くて明るいものであるような気がする。