私の身体は時々、他人のために使われた。
同級生の男子達に笑いのネタにされた時。
電車の中で痴漢された時。
「その足でミニスカート履くの?」と笑われた時。

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小さい頃から、周りより太めだった。
発育が早いことが悩みで、皆より胸が大きくなるのも、生理が来るのも早かった。
自分の身体が皆より早く大人になっていくのが怖くて、恥ずかしかった。
スイミングスクールで、膨らんだ胸をからかわれるのが嫌で、誰よりも早く更衣室を出るようにしていた。
身体測定の日、体重測定係の同級生に「絶対に体重、誰にも言わないでね」といちいちお願いしなければならないのが惨めだった。
だから、子供の頃は、自分の身体が大嫌いだった。皆の笑いのネタにされる自分の身体が、大嫌いだった。

初恋をして、私の身体はだんだんと私のものでは無くなっていった。
私の身体は、異性に魅力的だと思われることで価値がついていくようになった。
いくら私が自分の身体を好きになれなくても、私の身体を誰かが魅力的と思ってくれればそれで満足できる。
誰かが褒めてくれるから、私は私の身体を好きになる努力をしなくて済むのだ。
でも、その褒め言葉は、誰かが私の身体を都合よく利用するためだけに使われるものなのだということに、大人になれば気づいてしまう。
電車の中で痴漢されたり、私の身体をネタにされたり、誰かに都合よく利用されたり、自分で嫌ったり。
悲しいけれど、私の身体を本当に愛している人なんて、この世に誰もいなかったのだ。

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そんな中、社会人になって人生で一番激太りした。
その時初めて「自分の身体を好きになりたい」という感情が芽生えた。
人生で一回でいいから、私も誰にもバカにされないようなモデル体型になってみたい、ずっと体型で悩むなんて嫌だと思ったのだ。
そうしてダイエットに励み、10キロ近くの減量に成功した私が鏡を見て思ったのは、「この身体は理想通りじゃない」ということだった。

ダイエットは魔法じゃないので、体重を落としても、どうしても落ちない脂肪があったりどうしても筋肉が張ってしまったりして、スリムになりたい部位がうまくスリムにならなかったりする。
並々ならぬ努力を続けてダイエットに成功したが、正直言って、行き着いた先にあったのは理想の身体ではなかった。
でも、私はその時人生で初めて自分の身体を好きになった。
ストレスをぶつけるように暴力的に飲食を繰り返していた頃と全く異なり、一生懸命健康を保とうとしてくれる自分の身体に感謝するようになったし、何より努力して手に入れた身体は、理想のものとは違っても、宝物に思えた。
健康に気をつけて、筋トレも続けてもっと美しく整えて、ずっとずっとこの身体を大切にしてあげたいと、人生で初めて思った。心から思った。

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これからも誰かに私の身体をバカにされるかもしれない。
利用されたり、笑いのネタにされたり、「その体型でそんな格好するな」とか、言われるかも知れない。
でも、私は思い通りにいかなくて、うまく痩せられなくて、人より太めかもしれないこの身体が大好きなのだ。
ずっとずっと死ぬまで大切にしていきたいと思っている、私の宝物だ。
そして、同じように、どんな身体も誰かの宝物なのだ。
私は自分の身体が好きになれなかったからこそ、人の身体を利用したくない、笑いのネタにもしない、批判もしたくない。
なぜなら、その宝物を人に批判されることがどれだけ心に傷をつけることかも知っているから。