大学時代、新聞部に所属した。当時の部長と副部長は2つ歳上で、後輩をとても可愛がってくれた。部員同士はとても仲が良く、時には恋バナをし、時には部員の恋愛成就のお手伝いをすることもあった。

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話の流れで、好きな異性のタイプを話すこともあった。その際、「付き合うなら部長で、結婚するなら副部長みたいな人が良いです」と発言した。身近な人に例えることで、皆にとって分かりやすいかな、と思っての発言だった。
だが、異性が期待を抱くようなことを、簡単に口にするべきではなかった、と反省している。

ある日、他の大学の出版部と、合同で飲み会が開かれた。深夜に夜道を一人で歩くのは怖かったが、帰ることにした。しばらくして、副部長が自転車で追いかけてきてくれた。「近くまで送るよ」と優しい言葉も添えて。後日、同じ飲み会に出席していた女性から「女子として大切に扱われていて、うらやましかったよ」と言われた。
違う日には、夜遅くに大通りを通る際、副部長が自然と車道側に回ってくれた。典型的な「女の子扱い」に、少し照れた。
また、進路に悩んで副部長にLINEをした際、「今、どこにいるの?そこに行くから、一緒に考えよう」と、カフェまで駆け付けて、真剣に相談に乗ってくれた。帰り道も、私が「ここで大丈夫です。後は一人で帰れます」と言い切るまで、送ってくれた。

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先輩達の卒業まで、残り一ヵ月を切ったある日、副部長から電話が掛かってきた。今まで、LINEが来ることはあっても、電話が掛かってくることはほとんどなかった。「告白されるかもしれない」と直感した。

思い切って電話に出ると、電話越しでも緊張が伝わってきた。
「ずっと前から言おう、言おうとしていて、友達にも相談していたことがあるんだ」と切り出され、「◯さんのことが、好きです。今度、デートして下さい」と告白された。
素直に嬉しかった。副部長に、下の名前で呼ばれたのも新鮮で、くすぐったかった。
だが私には、副部長と「男女の関係になる」イメージができなかった。私はその場で返事をした。
「お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます。でも、お兄さんにしか思えません」
とても残酷な言葉を放ってしまった。私は続けた。
「前に、結婚するなら、あなたみたいな人が良い、と言いました。嘘ではありませんが、無意識で思わせぶりな発言をしてしまいました。本当にすみません」
告白を断ったが、副部長との縁は切りたくなかったため、「これからも、変わらず仲良くしてくれたら嬉しいです」と締め括った。
ずるい女だ。
副部長は言葉少なめに「うん、ありがとう」とだけ返してきた。
その後、副部長は就職し、私も気まずさがあったため、連絡を控えた。

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時は流れ、私の代が卒業を迎えた。
現役の部員達は、式の取材後にホールの一角に集合し、卒業生の門出を祝ってくれた。驚いたのは、その場に副部長がいたことだ。有給を取得し、足を運んでくれたのだ。
複雑な心境になった。卒業生全員の晴れ姿を観にきたのか、私個人に一言声を掛けに来たのか。本人に理由を聞かなかったため、真相は不明だ。
こんなにも、後輩や人を想うことのできる人を、どうして私は好きになれないのか。不思議でたまらなかった。この人と一緒にいたら、きっと幸せになれる。思ったことを口にする、生意気な後輩の意見を、全て真剣に聴き入れて親身になってくれる、素晴らしい人なのに。

副部長と私の関係は、血の繋がりは無いけれど、深い所で繋がっている「身内」。とても大切で、誰よりも幸せになって欲しいと願う「兄と妹」だっただろう。
副部長に期待させておいて傷付けた私は最低だ。未だに、副部長のことを思い出す度に「ありがとう」と「ごめんなさい」の言葉が、頭の中で駆け巡る。
今でも、異性と関わる際には、言動や行動には気をつけている。振る側も振られる側も、エネルギーを消費するからだ。