私は生まれてから29年間、一度も好意を抱いた方とお付き合いをしたことがない。それは決して出会いがないわけでも、モテないわけでもない。それには誰にも想像できない深い理由がある。

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私は学生時代から、それなりに恋をしていた。
課外活動で出会った先輩、違う研究室の博士課程の先輩……。私は比較的早く思いを寄せるタイプであった。けれども想いを伝えることも、そういったそぶりを見せることもなく、周囲の誰にも気づかれぬまま、ひそかに片思いをしていた。
家にいるときは、一人でいるときはその人のことで頭がいっぱいで、そのせいで何十時間も無駄にしているのに、付き合えた時の妄想で頭もいっぱいなのに、想いを伝えることができなかった。

私は物心ついた時から自分に自信がなかった。容姿も人間関係にも恵まれず、両親や周囲の人から否定され続け、その場しのぎで生命を繋いできた。
そんな私が唯一自己肯定感を得る術は、異性との交流であった。それは肉体関係を伴うものではなく、交換条件なしに経済を動かすことができた時、より優位に感じた。
元々インドアだった私は、文化系サークルやゼミといった真面目なコミュニティに多く所属し、童貞を殺す服といわれる白いブラウスと黒のロングスカートを組み合わせた服装を身にまとい、サークラーと言われる存在になっていった。こうした課外活動で知り合った二人の異性とかかわりを持った。

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一人目は中高一貫男子高出身の難関国立大生。見た目と経歴から、私が初恋の相手であることは一目でわかった。当の私はといえば、男子にしては小柄な彼に視線を合わせてニコニコと会話をしていただけなのに、まさかこれだけで効いてくるとは予想外だった。
しめたと思った私は、誕生日やクリスマスといったことあるごとに彼を呼びつけ、親が出てこないようにとあえてお手頃価格のものを買ってもらったり、食事に連れて行ってもらったりした。
そんなある日、会話の成り行きで「母親に優秀な血を継いでほしいといわれているけど、結婚とか興味がない」と彼が言い、私は何の企みもなく「でも、いい家に生まれたならいい人紹介してもらえるんじゃない」と返した。すると「その相手が栃木さんだったら……」と、予想もしないところでの告白が待っていた。
気のなかった私はその話を流し、それから時がたたぬ間に私が彼の近くでうっかり本音を漏らしてしまったため、その関係は終わりとなった。彼は何の危害も加えることなく自然と私から離れていった。

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二人目は8歳年上の難関私立大学出身の出世頭の男性。交際当時32歳だった彼の本気度は本物で、毎日ラインをして、食事の約束をすればカップルシートが用意され、手をつないで歩くことを強要してくるといったものだった。
彼の出世が決まった時、真っ先に連絡を入れたのは私だったが、その彼も仕事の関係で疎遠になってしまった。好きでない男性と恋人関係になったのだから、それに見合った見返りが欲しいと思っていた私は女性性の不当搾取だと言い放ち、思っていたより多くの十分な謝罪をしていただいた。

異性の前で経済を動かすことは私自身の女性性に価値があるようで、気持ちがよかった。
しかし、皆私に気がないことがわかると、好意を寄せたものは私から去っていった。
私がふられた理由、それは私が虚構の恋愛ばかり繰り返すからである。自分に自信を持たぬままモノやカネといった称号で自身の価値を図ろうとするばかりで、無償の愛を求めることはなかった。それこそがふられた理由だと思っている。

もし次のチャンスが訪れたなら、今度は本気の恋をしようと思う。
自分を傷つけないためにも、傷みつけないためにも、その場でこう宣言したい。