新卒で入社した会社では、入社してから半年間、研修期間が設けられていた。
研修先は配属先とは別の事務所で、寮生活だった。
実家から通っていた大学生活から、一転して寮生活に少しワクワクしていた。

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A君とは、「たまり場」として、仕事帰りのごはんや飲み会の会場として数人が集まる部屋で仲良くなった。
面倒見の良いタイプで、仲良くなるにつれて、なかなか痛いところをつくからかいをしてくる人だなと思った。
私は、好きな人には、大人しく見せてしまうが、友達には、おしゃべりになるし、鋭く突っ込みも入れてしまう性格だ。
A君とは男女の壁を越えて、仲良くできていると思っていた。

ある日、A君とお昼を二人で食べた。
食べ終わった後、少し気まずい沈黙が流れたが、しばらくしてA君が口を開いた。
「高山さんのことが好き。付き合ってほしい」
これでもかというほど、ストレートな告白を受けた。
そのとき、少し前のたまり場での飲み会で「男らしくリードしてくれる人に憧れる」と言ったことが頭をよぎった。
「告白してくれたことは嬉しいけど、友達でいたい」
その場で私ははっきりと断ったが、心中は穏やかではなかった。
その後、勇気を出してくれた告白を断った罪悪感に耐えきれず、すぐに自分の部屋に戻った。
友情ではなく、恋心として勘違いをさせてしまったことや、「たまり場」の仲間に気づかれずにこれからも変わらず仲良くできるのかといった申し訳なさや不安から、ふったのは私なのに涙が出た。

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私がA君の告白を断って4ヶ月後、「たまり場」の仲間づてに、A君に彼女ができたと聞いた。
取り残された気持ちになったり、ショックを受けたりするかと思ったが、正直なところ切り替えが早くて、フットワークが軽いな、とだけ思った。

社会人2年目になったある日、A君から、社内のチャット経由で「もうすぐ転職をする」という旨のメッセージが来た。
同期の中では、かなり早期の転職報告だった。
プライベートでも業務でも、関わりがなかったのに、わざわざ連絡をくれたのは、彼の優しさなのか。それとも彼なりのけじめだったのか。今となってはもうわからない。

そしてその約1年後、彼のSNS上で結婚報告を見た。
「たまり場」仲間の中では一番早かったし、私の知り合いの中でもかなり早いタイミングでの入籍だった。
おめでとうの気持ちを込めて、いいねボタンを押した。

先日、「たまり場」仲間の一人と飲む機会があった。
研修をしていた頃の話で盛り上がる中、唐突に質問された。
「あのとき、Aのこと好きだったよね?結婚報告もやもやした?」
告白されたことを隠そうかと思ったが、もう時効だと思い、告白を断ったことを伝え、どちらの問いにも否定した。
周りに気を遣わせていなかったことだけは成功していたことが、4年越しに確認できた。

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結果論になってしまうかもしれないが、A君の描いていたライフプランに、私は寄り添って歩んで行くことはできなかったと思う。
告白された側であっても、辛くて涙が出るし、悩むこともあるのだと知った経験になった。

あのとき、誰とも付き合っていないから、とりあえず付き合ってみるという選択をしなかった結果、今独身であることに繋がっているのかもしれないと思うと、この先が不安になってくる。
しかし、今のところ自分の選択に後悔はしていない。