あ、失敗した。
内定者交流会で周りが実家の話をし始めた瞬間、「ああ、あたしもあの家へ帰らなくてはならないのか」と悟った。
どこかで分かっていたはずなのに、知らないふりをして、就活していた。地元も、実家の雰囲気も大嫌いなくせに、内定欲しさに全てを見失ってしまっていた。あたしらしさが消え去っていたことに、そこで気づいた。
◎ ◎
大学生になって、都会暮らしが楽しくて仕方なかった。毎日刺激だらけで、いつの間にかその土地が大好きになっていた。友達にも、大学の先生にも恵まれて、趣味にも没頭して毎日楽しいことだらけだった。
ひとつ上の人達から就職の話を聞いて、どれだけ大変なのかを知った。自分の希望職種はポンポン弾かれていき、とりあえずと申し込んでいた地元の企業の選考がスムーズに進んだ。
すごく嬉しかった。あたしを欲しいと思ってくれる人が居るんだって。
目先のことばかり考えてしまうタイプだ。キャリアプランなんて「多分結婚しない」「それなりに毎日楽しければいい」くらいのもので、それが大学生活ひいてはその土地にあることをすっかり忘れてしまっていた。
あたしの地元は、そのどちらも持っていないだろう。そんなこと分かりきっていることなのに、就職活動に怯えたあたしは餌を垂らされた魚のように目の前の利益に飛びついて、その後のことは考えてさえいなかった。
あたしの行く道は、そこにしかなくなってしまって。そう気づいてから、食べ物を食べたくなくなり、趣味が何も楽しくなくなってしまったのだ。
◎ ◎
あたしらしさが消え去ってから、ついに食べ物を口にすることが出来なくなった。なぜか周りにいるのは就職を機に上京する友人ばかり。
ああ、神様、あたしどこで間違えちゃったんでしょう。
あたし、なんでこんな生き方しか出来ないんでしょう。
自殺行為にはしり、毎晩いのちの電話に電話をかけた。愚かな自分を罵る言葉を告げては、「じゃあもう一回就活すれば?」なんて相手は平然と言う。
簡単なことではない。今から就活を再開すること、卒業までに内定しなくてはならないこと、今の時点で就活浪人を決めている人が多くいること。そうやって言い訳している自分にも腹が立つ。
承諾書の期限ばかり迫って、あたしに残された道はひとつだった。キャリアセンターの人が「あなたのように悩んでる人、いっぱいいるよ」と困ったように呟いた。
思えば、ずっと誰かと比べてばかりの人生だ。今だってこうして生きてはいるものの、まだ、地元に帰りたくない、どこかで誰かが救ってくれることばかり夢に見ている。
ここで全て捨てたら良かったのだろうか。あたしの意気地なし。あたしの馬鹿野郎。毎日毎日朝起きて死にたい気持ちになりながら、「なんであたしは」と、らしさを卑下してアラームを消す。
今からそんな調子じゃすぐに仕事辞めちゃうだろうね、なんて呪いみたいな言葉。毎晩唱えて、消し去って、心の空洞を埋めるように誰かと会う日々を送っている。
あたしらしさを取り戻したいの、ねえ、誰か助けて。