中学生になって、私は吹奏楽部に入部した。
憧れの吹奏楽部。
これから始まる全てに期待を膨らませていた。

コンクールやコンテストで一喜一憂し、部活内でのいざこざで先生からお叱りを受け連帯責任で練習をさせてもらえなかったり、日頃の学校生活での怠慢を指摘され個人的に部活動停止を食らったり、と私も周りも激動な日々だった。
活字で見るだけでは伝わりにくいが、私はこの日々にとても人生を感じていた。

2年生の中頃。クーラーが効いているはずの音楽室で、頭が熱く、身体が異様に寒くなった。隣にいた先輩に「あの、今暑いですか?寒いですか?」と尋ねてみた。すると、答えもなく私のおでこに手をあて、「……熱あるよ!?先生!ヒトウさん熱あります!」と言われ、何がなんだかわからないまま保健室へ連れていかれた。
体温計を脇に挟み、雑談をいくつかしてピピピと乾いた音が鳴り取り出すと、そこには38.2という数字があった。

今思うと、この頃からおかしかったのかもしれない。
というのも、私はこの半年後、吹奏楽部を辞めるのだ。

◎          ◎

秋の、どっちともつかない気候のせいなのか、生活習慣の乱れなのか、私は感情の起伏が激しいどころではなくなっていた。
学校ではぶちギレ、部活ではイイコ、家では反抗期娘、といった具合だ。

原因が何か、明確なことはわからない。
しかし、忙しすぎるという状況が私をそうさせたのかもしれない。
と言っても、塾も行ってないし、ピアノも進学を機に辞めたし、家の手伝いなどもしていない。
小さい頃からの夜更かし癖のせいなのか。

自律神経の乱れか、悪魔に蝕まれたのか。みるみるうちに自分が崩壊していくのがわかった。
何か嫌なことがあったわけでも、嫌いな人がいたわけでも、無論、楽器や音楽を嫌いになったわけでもない。
心が追い付かなくなってしまったのだ。
先輩に話すと、「辞めたい気持ちを止めることは私達にはできない。自分で決めたなら、それでいい」と私の気持ちを尊重してくれた。

先生は非常に驚いて、辞めることを辞めることはできない?といたずらに言った。
他の部員にもその話はあっという間に広がり、お世辞か本音かはさておいて、みな「辞めないで」と言ってくれた。

結局、意固地な私は、私を守るために部活を辞めた。

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数年後、大学へ進学するも何か違うと数ヵ月で辞め、就職はせず、短期のアルバイトを繰り返していた。
ある時、中学の時から仲良くしてくれている友達と居酒屋に行った。
もう居酒屋に行く歳になっていた。
「なんかさぁ、あの時部活続けてたらさ、何か変わってたかもなーって思うんだよね……」
普段は飲めばヘラヘラに磨きがかかる私も、この時は弱っていたのか酔いに任せて過去を悔やんだ。
すると友達は、

「あの時ほんとにヤバかったから、辞めて正解だったと思うけど」

と、今までの人生で言われたことのない種類の返答だった。
学校生活で怒鳴り散らしてた私を見捨てず、仲良くしてくれてたこの友達。
思うところもあっただろうに。
私はこれを受け、とても感激した、のも束の間、「あの時は本当にすみませんでした」とテーブルに三つ指をつきなんちゃって土下座をした。
友達は笑っていた。

このことをある方に話したことがある。
「そういうこと言ってくれる人なんてなかなかいないよ!」
良い友人がいて羨ましい、とその人は言った。

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なんでもかんでも過去のせいにしがちな私。
そしてずっと足踏みをしてしまう。
自分でも自分を褒めてあげられないし、褒められるような存在じゃないと思っている。
それは私の生きてきた過去の"ダメなところ"を見つめているから。

そんなときは友人の辛くも優しいあの言葉を思い出す。
部活を辞めた私を、ある意味で肯定してくれた、あの言葉を。