大学1年生の夏、プールがある大型遊園地の沖縄料理屋でアルバイトをした。プールサイドに建てられていて、夏季限定で営業しているお店である。
働いたきっかけは、友だちに誘われたから。友だちの家族が経営していて、人手がたくさん欲しいとのことだった。夏の終わりに人生初めての海外旅行を計画していた私は、イギリスまでの旅費を稼ぎたいこともあってちょうどいいと思った。
往復の飛行機代と宿泊費、おみやげ代などを合わせて必要な20万円を稼ぐことを目標にシフトを入れ、従業員用の大きなバスに揺られて出勤した。

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飲食店のアルバイトは新鮮だった。1日単位で終わるような派遣のアルバイトはしたことがあったが、毎日同じ場所に行って、シフトの具合で多少違いはあれど同じメンバーと働くのは初めてだったからだ。
慣れないうちはかなり大変だった。ソフトクリームがどうしても上手く巻けず、まっすぐ綺麗に作れるようになるまで時間がかかった。ビールサーバーのビールが入ったタンクを替えるのに失敗して、勢いよく吹き出したビールを浴びたこともあった。おまけに毎日すごく暑い。
今思えば大きなクレームになるような失敗はなく、数々のへまは可愛いものだったが、慣れない仕事の中では少々気が滅入った。それでも半月経った頃には、メニューも覚え、勝手も分かるようになってきた。バイト仲間とも打ち解けて、次第に楽しくなってきた。

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一番印象に残っているのは、まかないのお昼ご飯を食べる時間だ。まかないはお店の好きなメニューを食べられることになっていた。
最初はタコライスや牛カルビ丼などを作って食べていたが、毎日のように食べているとだんだんアレンジを加えたくなってくる。ご飯の半分に牛肉を乗せ、もう半分に豚肉を乗せオリジナル丼を作ったり、牛丼にサルサソースをかけたりして楽しんだ。
働いているメンバーは、高校生から大学生、社員まで年齢や立場はさまざまだったが、食の話は共通で盛り上がる。まかないのアレンジの話題をきっかけに、通っている学校のことや、プールの監視員のお兄さんがかっこいいなどの話で盛り上がった。
この時のメンバーとは、10年くらい経った今でもお盆休みにBBQをするほど仲がいい。10年も経てば、みんな社会人になって、結婚して子どもができたなどの変化があるが、根本は何も変わらない。わいわいと川辺で肉や野菜を焼いて、他愛もない話をして「また来年ね!」と言って解散している。

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実は、私が大学生の時、父親は海外旅行に行くことも、夏休みにアルバイトをすることもあまり良く思っていなかった。毎日、資格の勉強をしろと言ってくるタイプだったからだ。
それはそれで有意義な過ごし方だと思う。しかし私は、あの夏にしかできない、いい経験をしたと思っている。

もちろん、2ヶ月間のアルバイト代で念願のイギリスに1週間行くことができた。
脇に汗をかきながら一生懸命につたない英語を話したこと、世界史の資料集でしか見たことがなかったお城を実際に見たこと、ストーンヘンジに吹く風が想像以上に強くて世界遺産を観覧するどころではなかったこと、どれもいい思い出である。そして何よりも、今も連絡を取り合える友だちができたことは、素晴らしいことだと思う。
大人になった今では決してできない、楽しく新しいことに挑戦できた大学1年生の夏。どの夏よりも心に残っている。