私はクラスに好きな人がいる。
恋愛感情か、と言われると、「はい」と言い切れなかった。これはきっと、Loveではなくて、Likeの方の好きだ、そう自分の中で結論づけていた。
私は、それを恋だと認めるのが、どこか怖かったんだと思う。恋だと自覚して、彼の前で普通を装えなくなるのが、怖かった。

GW明けの授業。少しずつ意気投合してきたクラスメイトたち。
クラスの誰かが言い出した。「クラスLINE作ろう」って。
まぁ、連絡手段は必要だよな。そういって参加したグループチャット。
メンバーに名を連ねるクラスメイト。もちろんそこに、彼の名前も。

友達かも?に表示された彼の名前。意図していないものだったとしても、私を喜ばせるのには十分だった。
課題だとか、趣味の話だとか、お互いの中学時代の話だとか。
某日、課題の提出について聞きたくて、そっとタップした彼の名前。
「え、来月誕生日じゃん」
LINEというのは便利なもので、設定してあれば誕生日がわかるのだ。初めて、誕生日の機能に感謝したかもしれない。

◎          ◎

誕生日プレゼント。少しは意識してもらえるかななんて、淡い期待。
それでも、一人だけに渡したら、それこそ好意を抱いているのではないかと憶測される。そんな周りの目が怖かった。
放課後、親友となった同じクラスの子に、相談をした。

「誕生日プレゼント、あげたら変かな?」
「流石に変じゃないと思うけど、一人だけにあげたら誤解されない?」
「だよねぇ。どうしよう」

噂が広がるのが嫌いだった。できることなら、この感情は秘めていたかった。
そして、私はある作戦を思いついた。
誕生日が近い二人にあげれば、問題ないのだと。
私が彼の誕生日プレゼントに選んだのはお菓子だった。ちょうど同じころに誕生日だった女子にあげる。そのついでを装って彼へ渡す、それが私が考えた作戦だった。

そうと決まれば、話が早い。簡単に作れるお菓子をネットで調べて、誕生日の二人にアレルギーを聞いて、準備をする。日々が近づくにつれて、心が落ち着かない。
これはやはり恋心なのだろうか。もう、目を背けているのも限界かもしれない、なんて思いながら挑戦したお菓子作り。

◎          ◎

彼の誕生日当日は、土曜日だった。週明けの月曜日が、クラスの女子の誕生日。カモフラージュには、最適だった。少しだけ利用してしまった罪悪感は、彼女にあるけれど許してほしい、なんて思っていた。

日付が変わる瞬間に、メッセージを送る。Happy birthdayと書かれた、かわいい動物のLINEスタンプ。
しばらくして返ってきた「ありがとう」。「いい誕生日にしてね。誕プレは、月曜日に!」なんて、返信をした。そんなメッセージを送る私の手は、震えていた。

月曜日の授業前。クラスの女子へ告げた「誕生日おめでとう」。私の声に、反応した別のクラスメイトが彼女を祝う。そんな騒がしさを利用して、こっそり彼へとお菓子を渡した。
自分でも、上手くいったと思う。休み時間、トイレに行こうと席を立った時に、チラリと映った青い袋。私のプレゼントが、彼の机に置かれていた。

◎          ◎

授業が終わり、だらだらと最寄り駅まで向かっていた。クラスメイトと駄弁りながら帰る、その時間が楽しかった私は、彼と話しながら帰るなんて高望みはしなかった。
「ただいま」
誰もいない一人暮らしのワンルームに私の声は消えていく。明かりをつけて、荷物を置いて、手を洗う。洗面所から戻れば、携帯に通知が届いていた。

「お菓子、めっちゃおいしかった!!」
その感想だけでも、報われた気がした。良かった、なんて胸をなでおろした。
「美味しかったならよかった!」
メッセージに、LINEスタンプを添えて、アプリを閉じた。
夕食を作ろうと、キッチンに移動する私の足取りはどこか軽やかで、疲れなんて吹っ飛んでしまった。

わかりやすすぎやしないか、自分。
この感情は、どうやらLikeじゃないようだ。周りには、話すことができないこの気持ち。1㎜だけでもいいから、こちらを意識してほしいなんて期待を抱いた。

あぁ、どんなことをしたら彼はこちらを見てくれるだろうか。
新たな作戦を考えながら、私は冷蔵庫の扉を開いた。