新しいことを始めるのに、年齢なんて関係ないと、よく聞くけれど、実際にはそんなことはない。何か一つを選択してしまったら、そこから別の何か新しいことに挑戦するのは難しい。

私の将来の夢は、ケーキ屋さんになることだ。
お菓子を作るようになったきっかけは母の誕生日。母が仕事に行っている間に一人で作ったクッキーを食べてくれて、喜んでくれた姿に充足感を覚えた。それから人にお菓子を作って配ることが好きになり、いつかはパティシエになりたいと思っていた。

でも現実はそう甘くはない。お菓子を作ることが好きな人は世の中に五万といて、職人の世界は修業が厳しくて、上下関係が厳しくて、それなりの覚悟が必要だ。
何より、成功する人はその五万といる中のほんの一握り。収入も安定しない。そんな過酷な環境に耐えられるわけないと諦めた。
親からの批判があったことも諦めた原因の一つである。身内から応援されない仕事は続けることが難しい。

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私の将来の夢は、警察官になることだ。
祖父の影響で刑事ドラマが大好きな子どもだった。警察官がどういう仕事か知らない幼少期は、「警察官になって家族みんな逮捕するんだ!」なんて言っていたこともある。
ある程度年齢を重ねても、ドラマに映る警察の姿に憧れを抱き続けている。特に女性警察官は憧憬の念を抱かざるを得ない。強かで美しく、男性にも引けを取らないその存在感は私にはないものばかりだ。

いざ、就職活動を始めるとき、もちろん警察官も視野に入れた。しかし、そこには大きな壁があった。身長制限という壁が。
募集要項は150㎝以上。私の身長は148㎝。どんなに努力しても越えられない壁に当たってしまった。当時の私には警察事務という選択肢は視野になく、この壁を前にして諦めるしかなかった。

私の将来の夢は……、私の将来の夢は……。いくつも思い描いて諦めてきた夢が沢山ある。
新しい挑戦をするのに年齢なんて関係ないかもしれないが、これらの夢は流石に始めるには遅すぎる。
それでも叶えたい夢は沢山ある。人生は一度きりだ。だからこれらの夢を全て叶えてやりたい、と思ったとき、新たに一つの夢ができた。

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今の私の将来の夢は、俳優になることだ。
俳優は自分とは違う人間を演じることで、疑似的ではあるけれど別の人生を歩むことができる。パティシエになることも、警察官になることもできる。一度きりの人生ですべての夢を叶えてやろうと思ったとき、これ程ピッタリな職業はないと思った。
今の職場を離れたとき、「長いこと会っていないけれど、そんな気がしない」と思ってもらえるように活躍したい。今や俳優が活躍するフィールドは演技の場だけではない。俳優になったとしても、その中で沢山の経験ができる魅力的な夢だ。
もちろん、芸能人と友達になりたいとか、TV番組で美味しいものを沢山食べたいとか、庶民的な願望も含まれてはいるが(笑)。

しかし、俳優という職業もパティシエのように安定した職業ではない。夢を持つ者に対して活躍できる人は極わずかである。安定志向の両親からは反対されるだろう。
警察官のように容姿が仕事に影響を及ぼす。とりわけ美人でもなく、スタイルも良くない私がこんな夢を語ったりなんかしたら、周囲からの反応はある程度読める。演技力も甚だ怪しいものである。

もちろん、不安は大きい。非難されることも、否定されることも、とても怖い。でも、こっそりと大物になってみんなの鼻を明かしたいというたくらみもある。
だからこそ、俳優を目指していることは、周囲には打ち明けられない、誰にも言えない、言わない、わたしの秘かなたくらみである。