コウペンちゃんに出会ったのは、社会人2年目の時だった。
仕事に押しつぶされそうになりながら必死でこなし、夜は酒を飲み吐くような日々。発泡酒を黙々と飲みながら、目的もなくスマホを触る。Twitterのタイムラインをスクロールしていたら、なんだか可愛いイラストが見えた。

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小さくて丸っこいペンギン。気になって調べると、最近人気爆発中らしいキャラクターだった。コウテイペンギンの赤ちゃんであるコウペンちゃんが、日常の何気ないことを褒めてくれるコンテンツ。

「出勤してえらい!」
この一言が添えられたコウペンちゃんのイラストがバズって、LINEスタンプや絵本まで出るほど人気者に成長したらしい。
ふわふわしていそうな柔らかなイラストと、画面のこちら側に向けられた肯定の言葉。しんどい現実に疲れていた私には、とても優しい世界だった。

制作者さんのTwitterにあがっていたイラストを次々に見た。LINEスタンプは買わなかったけど、絵本は読んだ。偶然にも職場の人からコウペンちゃんの付箋をもらった。自分のデスクの引き出しを開けると良く見えるように収納して、仕事中も度々癒やされた。

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コウペンちゃんの肯定の言葉は数多くある。でも一番私に刺さったのは「生きててえらい」だ。
理不尽なクレームの電話を受けたときや、上司から今日中にと大量の仕事をふられたとき。心は泣きながら、でも顔は無表情にただでさえパンクしている仕事を横目に見つつ、それらを処理していく。淡々と、ミスだけはしないように。

そうしてサービス残業を終え、疲弊した身体を引きずりどうにか帰宅し、玄関に座り込む。しんどい、つらい、やめたい。仕事どころか人生さえも。思いかけて踏みとどまる。
ふわふわの、コウペンちゃん。だって、生きてればそれだけでえらいから、まだ大丈夫。

退職してからは自身に余裕ができたのか、コウペンちゃんから遠ざかった。目にすればほっこりするが、自分から情報を追わない。そんな状態が数年続いている。
それでも「生きててえらい」は頭に残り続けている。疲れたとき、頑張りすぎたとき、鬱々しているときなどに、ふとこの言葉が浮かぶ。

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特に子育てにおいて、何度助けられたことか。
体力も精神も疲弊する赤ちゃんのお世話。ぼろぼろ泣きながら授乳して、でも足りなくてミルクを作ってもあまり飲んでくれない。発達が遅れている気がして検索魔になる。泣き止まない赤ちゃんを一晩抱っこ。上手に育てられている自信がなくて折れそうになって。
でも、私もこの子も今生きている。ぎりぎり発狂せずに長い夜を乗り越えられた。幾度も。
そして迎えた昼間に保育士の先生に相談する機会を得た。育児は正解がわからなくて不安だよね、と寄り添ってくれる方だった。そして経験則からなるアドバイスと、もし不安が強ければと専門的な機関を紹介してもらった。

先生は私に明るい声でこう言った。
「元気に成長しているから大丈夫」
これだって、「生きててえらい」と同じ意味だ。コウペンちゃんは意外と、色々なところにいるらしい。