夏は好きじゃない。
痛いくらいに照りつける太陽。蒸された空気。時折鳴り響く雷鳴。夏を構成する全てが私の呼吸を妨げる。息苦しくてたまらない。

夏といえば、大会だった。
私は中高生のとき、部活を掛け持ちしていた。
運動部も文化部もごったにして、やりたいことをやりたいだけやっていた。
たいして上手くならないのに日に焼けて黒くなるだけのテニスも、音痴だからとはじめた合唱も、舞台に立った瞬間頭が真っ白になるスピーチも、それぞれが魅せる世界が私にとって大事だった。

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大きな大会への切符をかけた闘いはどれも夏だった。別に結果が全てじゃない。わかっている。
それでも私は勝ちにこだわった。勝ちへの過程も含めてその競技への愛だと思った。

でも、私はどの競技も強くなかった。
もう少し。そのあと一歩がどうしようもなく遠く、届かなかった。周りは「やることを絞ればいい」と口を揃えて言った。冷静に考えれば、その助言は正しかったのだろう。それでも、私はたくさんの競技に手を出した。ただ好きだったのだ。すべての世界が。手放したくないほどに。悔しくて泣いても、仲間と喧嘩しても、それ以上にその競技が、その仲間が好きでたまらなかった。

ある年の夏、地方ブロック大会。
それは、これまで県大会への進出にとどまっていた私たちが初めてみた景色だった。
大会に向けて、好きじゃない夏の道を、練習のために毎日歩いた。一歩進む度に息が苦しかった。照りつける太陽に目が眩んだ。それでも、歩いた。前に進むために、後悔をしないために。

大会会場は大きなホールだった。けれど、全てのチームが入ったら狭く感じた。誰かの闘志や希望で蒸されてくらくらする空間だった。会場は空調が整えられていたが、ステージは照明でカンカンだった。会場の熱とステージの熱。息をするにもつらい空間で、倒れないように、一歩一歩進んだ道のりに胸を張れるように私たちはただ目を開けて、前を向いた。そして、ステージに立った。

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悪くなかったと思う。というか、よかった。これまでで、きっと、1番だった。きっとみんなそう確信していた。そんな、ふんわりとした、でも確かな充足感に満ちていた。
ステージに立った以上、結果が告げられる。他者からの評価が下される。全国への切符が誰の手に渡るか決まる宣告の時間。私たちはみんなで手を繋いで自校の名前が呼ばれるのを待った。
銅賞……。ここで呼ばれてしまってはいけない。
全国大会には金賞しか行けないのだ。
銀賞……。切符が近づくにつれて私たちは強く、固く手を握り目を瞑った。
そして、金賞。いっそう手と目に力が入った。来る。やっと、やっとだ。力が最高潮に達した。
そして、その瞬間。
私たちのすぐ後ろの席から絶叫が鳴り響いた。喜びと感動に溢れた大きく高い叫びだった。
私たちは負けた。どの賞にも属さずあっさり負けた。
不思議な気持ちだった。悔しいとも、つらいともいわぬ気持ち。ただ涙がこぼれた。みんな、泣いていた。手は固く繋がれたままだった。

あれはなんの涙だったのだろう。
名前はつけられないままでいる。

大勢の色とりどりの感情がごったがえした地獄のような会場。目のくらむようなステージ。勝者によるアンコール。私たちがただ泣いている時間は、その涙は紛れもなく夏だった。

あれから随分と経った今も夏は好きじゃない。
それでも、夏を嫌いだと言えないのは、魅了された世界たちを忘れたくないからかもしれない。