大学生活最後の夏、2021年7月10日(土)に、私の人生は一気に進み始めた。
午前中、私は日本語教師の資格を取るために入校した学校(と言っても前半はe-Learningだけれど)の入学式に出席した。

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実はその少し前、私は大学中に絶対しようと決めていた留学を辞退した。周りの人は「コロナだからね」と私が何も言わずとも納得してくれたけれど、実際は違う。
確かにコロナ禍で一年延期になったけど、本当は留学できた。でもその時の私は、オンライン授業ばかりで友達に会えない一人(孤独)暮らしの日々、いくらやっても終わらない課題、元バイト先でのパワハラ(これが一番の原因)……色んなことが重なって鬱病になっていて、バイト先を変えてだいぶ回復していたけれど、正直留学どころじゃなかった。

でも、留学をやめる決心をしたら、今度は「就活どうしよう」という不安に襲われた。周りはもう内定をもらい始めている中、私は留学を理由に何もしてこなかったので、もちろん内定なんてない。しかも、海外行きたい!住みたい!という思いも消えず、このままとりあえず就職したら後悔する……と思っていた時、母が見つけてくれたのが「青年海外協力隊」。そして、その募集要項を見ているとき目に止まったのが、日本語教師だった。

これもADHDの特徴らしいが、「これだ!」と思ったら後先考えずに突っ走るので、そこからはあっという間。親に想いを熱弁して受講料を立て替えてもらい、入校した。
「せっかく前期で単位取り終わって、後期はのんびりしようと思ってたのにまた勉強か〜」と思いつつも、それまでお先真っ暗だった卒業後の進路に光が差した気がして、何だかとってもわくわくした。

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そんなわくわくな気持ちのまま、午後はバイトに行った。
鬱のどん底の時に、「このまま家に引きこもってたらだめだ」と、とりあえず始めたバイトだったけど、ほとんどが両親よりも年上のパートさんや社員さんの職場で、みんなあたたかくて、このバイトを始めてから私の鬱はかなり改善した。
そんなバイト先に、他の社員さんよりかなり若そうな男性の社員さんがいて、私は気になっていた。仕事の合間に数回喋っただけで、マスクをしているので、名前以外の情報はほとんど何もなかったけど、なぜかすごく気になって、もっと話したいなと思っていた。

そしたら、入学式の日。早朝から働く彼は、いつも昼過ぎには帰るのに、なぜかその日は夕方まで残っていた。不思議に思っていたら、バイトあがりに「よかったらお茶行かん?」と言われた。びっくりしすぎて、「誰とですか?」と聞いた気がする。

カフェで話す時間は本当に楽しくて、あっという間だったけれど、彼と話していてびっくりしたことが二つ。
一つは、イギリスにある支店で5年間働いていたことがあって、数年以内にまた行くかもしれないということ。
もう一つは、マスク姿で勝手に20代後半と思っていたら、今年37歳になるアラフォーだったことだ。私と15歳も離れていたのだ。

海外で働くことに憧れていた私は、彼のイギリスでの暮らしや、旅行で行ったヨーロッパ各国の話に惹き込まれたけど、それと同時に「また行っちゃうのか。じゃあこれ以上進展しないかあ」とも思った。
それ以上に彼の年齢は衝撃で、「人間として興味持たれただけで、恋愛対象じゃないのかな……もしかして結婚してたりして。もっと仲良くなりたいけどいいのかなあ」とモヤモヤした。

色々ありすぎた長い1日の疲れと、彼に誘われた嬉しさとこれからどうしようというモヤモヤで、その日の夜は知恵熱が出た。

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幸い既婚者ではなく、その後も何回かバイト終わりにお茶に行ったり、お出かけしたりして、9月に彼と付き合い始めた。
そして、色々あってあっという間に話が進み、今年の6月私たちは夫婦になった。

彼がまたイギリスに行くという話が会社で出て、「私も一緒に行くためには、出国前に結婚して配偶者としてビザの申請をした方がよい」と会社から言われ、「私が日本語教師の資格を取ってから、秋以降に」という予定をかなり早めて入籍したけれども、彼の働く会社(私のバイト先)は漆黒のブラック企業で、「隔週2日休みから週休2日にする代わりに」という全く理解できない理由で、入籍してすぐに元から低い給料はさらに下げられた。

ビザの申請を早く始めたいと入籍を急かしてきたのは会社側なのに、入籍以降イギリス行きの話は全く進まない。私は今年の9月に資格が取れる予定なので、本当は就職して少しでも稼ぎたいけれど、予定では年末か年始にはイギリスに行く予定なので、就活はできず、今は勉強をしつつバイトを続けるしかない。

他にも彼の父が単独事故を起こしたと思ったら、脳梗塞とわかって入院したり、退院してからもサポートが必要だったり……。本当に色々あって、彼と結婚できたことは本当に嬉しいし、後悔はないけれど、はっきり言って「幸せいっぱいの新婚生活」とは言い切れない状況なのだ。

2021年7月10日(土)は、私にとって始まりの日だ。あの日進み始めた資格の勉強と彼との関係は、今も進行中で多分これからも続く。
勉強は挫折しそうになるし、結婚生活は色々あって前途多難だけど、あの日のわくわく、舞い上がるような感覚、嬉しい気持ち、ずっと忘れずにいたい。