子供の頃の夏休みが、恋しい。
夏休みとはいえ、両親は働いているので朝6時には起床。寝ぼけながら顔を洗い、髪をとかした頃に近所の4つ上のゆうかちゃんが迎えに来てくれる。
自転車で3分くらいの公園にみんなで向かうと、すでに自転車が子供用から老人用までパラパラと並んでいる。ブランコに乗る子、ジャングルジムに並ぶ子、ベンチに座る子、セミを捕まえている子、いろいろいるけどみんな楽しそう。6時半になったら定番の音楽が鳴り始めて、みんなでラジオ体操をする。
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終わったらスタンプをもらって、家に帰り、ご飯を食べる。大体ご飯と味噌汁と卵焼きとレタスだったな〜。レタスが嫌いで、避けてた。ご飯を食べたら、おばあちゃんちに車で送ってもらう。
おばあちゃんちに入ると、おばあちゃんが朝ドラを見ながらご飯を食べているので、ちょっとつまみ食いしつつ、テレビをチラ見する。家から持ってきた宿題をちょこちょこやって見て、眠くなったら寝る。
家の中にいるのに飽きたら物置に行く。うちのおじいちゃんとおばあちゃんはやたら物を買うし片付けないので、物置き場はジャングルみたいだった。そこから何か可愛いものがないか探したけど、おじいちゃんのいかがわしい本くらいしか見つからなかった。
あとは、家の目の前のドブでザリガニを釣っていた。ハンガーにTシャツを引っ掛けて作った「虫取り網」が家にあって、それを使ってザリガニを20匹くらいとった日があった。それをタライに入れて玄関の前で飼っていた。食パンとかを餌にあげていたのだけど、彼らが共食いした日があって、その日以降ザリガニを飼うのはやめた。
そういえば目の前のドブはいろんなことで使ってて、おばあちゃんは家でとったらっきょうを洗ったりしてた。ある日らっきょうを思いっきりドブにぶちまけた日があって、遠くのドブでそのらっきょうを見つけたときは、笑いが止まらなかった。
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昼ごはんはだいたい素麺だった気がする。でも毎日食べても飽きなかったな。素麺に入れる具が毎日違ったから。家の庭から大葉、きゅうり、オクラをとってきて刻んだものや、サバ缶やイワシ缶を入れたりしていた。
夕方はおじいちゃんの畑の手伝いに駆り出されることが多かった。馬糞が臭すぎたけど、野菜がちょっとずつ大きくなって、収穫できた日は嬉しい。夏野菜の揚げ浸しをおばあちゃんが作ってくれて、みんなでEテレを見ながら食べるの楽しかったな。
そんな毎日を繰り返して、稲穂がだんだん垂れてきたら夏休みは終わり。
そんな夏休みがなくなって、10年以上がたった。私は好奇心に溢れた子供だったことが幸いし、お勉強がよくできたので、東京に進学し、同じような境遇の人と恋に落ち、東京で職を見つけ、住み着くことになった。
多分、私の子供は、親のいない、冷房の効いた部屋で、ゲームや勉強をする夏休みを過ごすのだ。小学生のうちから夏期講習に通ったりするのかもしれない。それを思うと、ほんとは涙が出る。私には、田んぼからの風が気持ちいい夏が刻まれているから。
だから、夏になると考えてしまう。「東京に出てきて幸せだった?」と。