私はお芝居を観る事が好きだ。
今はなかなか行けないが、多い時には2ヶ月に1回くらいは観劇していた。小劇場からミュージカルまで幅は広く、高校時代演劇部だったこともあり、劇場という非日常的な場所が好きだ。
今までに観てきたお芝居の中でも特に好きなものが、小説「あしながおじさん」のミュージカルである。

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8年前、たまたま新聞の隅に広告が載っていた。公演日の前々日で、丁度仕事が休みの日だった事と好きな女優さんが出るならと、その日の内にコンビニに走りチケットを購入した。
劇場に入ると舞台に緞帳がなく、すでに舞台装置があり、優しく懐かしいような温かい世界観に一気に引き込まれた。

アメリカ郊外の孤児院から始まる。少女の元に“あしながおじさん”から、それまで受けられなかった教育の場を与えられる。会ったことの無い“あしながおじさん”へ手紙を送りながら、次第に大人の女性へと成長していく物語である。

“あしながおじさん”と主人公の二人劇で、この女優さんがもともと好きで、CDを聴いたり出演作を観ていたが、このお芝居を観たのは初めてだった。劇中で少女からだんだんと大人になっていく姿を観て、演じ分けがとてもナチュラルで、時にコミカルでとてもチャーミングだ。孤児院育ちというまわりの子との格差に劣等感を抱く姿や、新しいことに触れる度に純粋に喜べる姿が印象的だった。

劇中で主人公が歌う「幸せの秘密」という曲がある。とても良い歌詞で全て書きたいくらいだが、その中で幸せは身近なところにある、という趣旨の部分が当時の私にはとても深く印象に残った。

当時は将来が心配なのに自分で行動が出来ず、人のせいばかりにしていてもやもやすることが多かった。この歌を聴いてハッとした。私がもっていないと思っていた事は既にもっていて気が付いていないだけだった。
生活している中で迷ったり落ち込む事があると、このDVD・CDに頼る。そうすると心が柔らかくなる。

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これをきっかけにこの女優さんがもっと大好きになった。こんな女性でありたいと思う憧れが出来た。気取らずありのまま可愛くもありきれいで、時にはざっくり適当なところも愛らしい。
私は今年の春に初めての出産をした。この女優さんも同じ時期に出産された。妊娠中の心配事や育児でしんどいときに同じような気持ちかな?と考えると気が楽になった。

もしこのミュージカルとこの女優さんに出会っていなければ、私はきっと人のせいにばかりしてしまう人生のままだったと思う。そして日々の小さな何気ない日常の幸せや人を大切に慎重に想う気持ちが感じられなかったと思う。

劇中で何度も出てくる手紙だが、その影響か私は手紙をよく書くようになった。夫の誕生日や結婚記念日・何かプレゼントを渡すときには手紙を添える。直接は言えない言葉も手紙でなら伝えられる。
夫は付き合っている時から恥ずかしいからと手紙を書いたことはなく受け取るだけだったが、今年息子が産まれてから初めての母の日に花束と夫と息子(まだ話せないし字も書けないが夫が息子になりきって書いてくれた)からの手紙をもらったのだ。とても嬉しかった。書き続けていて良かったなと思った。

その手紙は大切にすぐ見えるところに保管した。読み返すといつでもあったかい幸せな気持ちがよみがえる。

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今年はこのミュージカルが再演されるが、代打で別の女優さんで上演される。2012年の初演からずっと同じキャストでの上演だったのでとても気になる。また違った主人公の魅力が生まれると思う。観に行きたいが、私の住んでいる地域には来ないのでとても残念だ。

あの温かい空間をたくさんの人に味わってもらいたい。いつかまた必ず観に行き、「ありがとう」の手紙を書いて送りたいと思っている。