懐かしい夢を見た。とてもとても懐かしい夢。温かくて、愛おしい夢。
夢の中に出てきた犬のぬいぐるみ。名前は「ジョー」という。私が幼い頃に父が買ってくれた、大きなゴールデンレトリバーのぬいぐるみだ。当時3、4歳だった私よりも大きく、よく抱きしめては顔を埋めていた。今隣に立ったら、私の腰より少し低いくらいだろうか?
社会人になり、久々に実家に帰ったとき、ジョーの姿はどこにも無く、家族の誰かがどこかの押し入れにしまってしまったらしい。その時は少し寂しさを感じたが、その寂しさは本当に僅かで、実家から一人暮らしをしているアパートに戻る頃には完全に消えてしまっていた。
あれから5年。この5年間、ジョーのことを思い出すこともなく、身近にいないことに寂しさを感じることもなく過ごしてきた。
しかしつい先日、そのジョーが私の夢に現れたのだ。
◎ ◎
夢の中のジョーは、相変わらず可愛らしい見た目で、手触りの良い毛をなびかせていた。その姿は確かにぬいぐるみではあったが、まるで魂が宿ったかのように動き回っていた。
私を見つけるとすぐさま走り寄ってきて、私の足に頬擦りをしてくれた。その瞬間、幼かった頃の私に戻ったかのように、ジョーへの愛しさが込み上げてきた。
「どうして今まで忘れていたんだろう。あんなに大好きだったのに。どんなに寂しいときでも、ジョーは側にいてくれたのに」
幼い頃、親は仕事でほとんど家に居らず、10歳以上歳が離れた兄と姉も学校に行っていたため、1人で留守番をすることが多かった。
用意された食事、いつでも観られるようにとセットされたビデオ、そして寂しさを埋めるかのように常に寄り添っていたぬいぐるみのジョー。
あぁ、そうだ。
涙がこぼれそうになった時は、いつもジョーに抱きついて1人で静かに泣いていたんだ。そんな私もあっという間に大きくなり、ジョーの背丈を越え、思春期を迎える頃には寂しさの拠り所は他の所へと移っていた。そして専門学校進学と同時に実家を出て一人暮らしをスタート。ジョーを最後に抱きしめたのはいつだっただろうか。そんなことを夢の中で考えていた。
「ジョー、ごめんね。ずっと忘れててごめんね。いつの間にか私の方が大きくなっちゃったね。泣き虫だった私を心配して会いにきてくれたの?」
ジョーに静かに問いかける。するとジョーは頬擦りをゆっくりと止め、私の方に視線を合わせてくれた。ジョーは何も言葉を発することはなかったが、ただ静かに私の手を舐めてくれた。
◎ ◎
そこで目が覚めた。鮮明な夢。すっかり忘れていたぬいぐるみのジョー。何故今になって思い出したのだろう。とても不思議ではあるが、心が温まったことは間違いなかった。新しい地で突っ走る私を心配して夢に出てきてくれたのだろうか?
次に実家に帰る時は、ジョーを必ず見つけ出す。どこにいても必ず。そして思いっきり抱きしめたい。
「ただいま、今戻ったよ」って。