私は一人暮らしのマンションを足早に飛び出す。
早く帰りたい。あの子に会いたいーー。
実家で飼っている愛犬に。

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私は愛犬を思うあまり、実家から近いところで一人暮らしを始めた。一緒に連れて行くことが頭をよぎったが、あの子の慣れた環境を崩したくなかったし、家族みんなにとって大切な存在だから、私1人のために連れていくことはできないと思ったのだ。
それに一人暮らしだと、仕事に行っている間、さみしくさせてしまうかもしれないと。

そういうわけで、私は平日空いた時間ができたら、仕事帰り、あの子に会いに行ってしまう。
夜遅くになったときは、起こしたくないから、そーっとドアを開けるが、気配を察してばれてしまう。
そして、尻尾を振って、にかーっと歯を見せて笑いながら私のほうをキラキラ輝いた目で見てくる。
ああ、かわいい。起こしちゃってごめんね。

おもちゃになっているキッチンペーパーの芯を投げたり、奪い合いっこをしてお互いハアハア言いながらひと遊びしたら、あの子は満足して寝床に戻っていく。

「じゃあね、また会いにくるからね」
私は投げかけると、私は帰る準備をする。
名残り惜しいと思いながら。
「また犬に会いに夜帰ってきたんかいな。あの子の世話、みんなでしてるから大丈夫やで。気をつけて帰りなあ」
お風呂上がりの母が笑いながら、玄関で私を見送る。
実家暮らしのときは、主に私が散歩担当だったが、私が一人暮らししてからは妹と母が行ってくれているらしい。

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私は重度の愛犬依存性なのかもしれない。
いくら家族から愛犬の写真や動画が送られてきても、直接、あの子の顔が見たくて会いに行ってしまう。
平日、仕事で疲れていても、実家に寄って帰る。そして晩の散歩に行ったり、家で一緒に遊んだりする。
土日ももちろん、あの子に会いに行く時間は確保している。だって、あの子の寿命は私たちよりも、うんと短くて今しかたくさん一緒にいられないから。

たまに、静まり返った寝室で、真夜中にふと考えてしまう。いつまで一緒に過ごせるだろうと。実家にずっといとけば、もっとたくさん一緒に過ごせたのかなとか。将来、結婚して遠方に行ったらあの子としばらく会えなくなるなとか。そして、うっと涙が込み上げてくることもある。ああ、私は本当に重度な愛犬依存性だ。

話は変わるが、私は今、婚活をしていて、気になる人とメッセージのやり取りをしているのだが、実家で犬と会っているときは、携帯は見ないようにしている。
今は愛犬に集中タイムである。この時間は誰にも邪魔させない(笑)。

将来の結婚相手が愛犬に理解のある人だったらいいなぁ。結婚後も、毎日、実家に帰って、あの子に会いに行きたい……なんて無謀なのかな。あの子の頭をわしゃわしゃして、抱きしめて、焦げパンみたいな香ばしい匂いを思いっきり嗅ぎにいきたい。

私と愛犬との時間を、これからも大切にしていきたいと思う。