忘れられない街、というと大袈裟かもしれない。一方で、住んだことはないが、不思議な縁を感じる街がある。神戸だ。
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母子家庭である私たち家族は、同じ地域に住む、母子家庭の人たちの集まりに参加していた。学生時代には、年に1回の近場への研修旅行にも参加していた。
中でも、足を伸ばした旅行先だな、と印象深かったのが、神戸である。異人館巡りや、ロープウェイの乗降、自由時間に道に迷い、集合時間に遅れて他の参加者を待たせた苦い思い出もある。
また、母は高速バスを気に入っていた。乗り換えなしで格安で移動できるからだ。高速バス会社が主催する、観光ツアーのチラシを読んでは、私にも見せてくれたものだ。ルミナリエを観に、弾丸でツアーに参加した記憶もある。
あれから随分と月日が経ち、ルミナリエは規模が縮小されたり、開催がされなくなっていった。寄付が集まらないのが一因のようだ。とても残念である。
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ところで、今の会社への入社の決め手は、滑り止めと、神戸事業所の存在が大きかった。転勤で、神戸で働くチャンスがあるかもしれない、と淡い期待をしていたのだ。
結局、部署異動のチャンスは巡ってこない会社のため、転勤が叶うことはなかった。だが、仕事上ではあるが、神戸事業所の人と毎日やりとりをすることで、繋がりを感じている。
私と同じ時期に神戸事業所に入社した方がいる。4年程、お互いに経理担当として、毎日電話連絡をし、分担して協力し合いながら業務に取り組んだ。
また、後輩に対して、とても親身になってくれる営業マンも、神戸事業所に在籍している。その方は、事業所や部署も異なる、私のことも気にかけてくれている。
ある日、私が落ち込んでいるときに偶然、営業マンが会社の電話に出たので「元気を頂けるような気がしたんで、声が聞きたかったんです」と話した。すると、プライベートの連絡先を交換することになり、いつでも相談できる環境を整えてくれた。神戸という離れた場所に「味方がいる」「知人ができた」ことは、この会社に入って良かったと思える、数少ない利点である。
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あるとき、神戸の経理担当者が育児休暇から1年半振りに復帰したため、復帰祝いをしたい、と思い立った。同時に、今年になって神戸の事業所に配属された新卒入社の子とも、久しぶりに会いたくなった。
私は夏季休暇を利用し、1泊2日の神戸旅行をした。会いたい人に会うため、やりたいことを一気に詰め込んだ。タイトなスケジュールではあったが、充実した旅となった。
まず、観光ができた。海と山に囲まれた地形は、私の住む地域と似ているので、親近感がわいた。フェリーに乗船し、明石海峡大橋を遠目で捉えたり、ポートアイランドや六甲アイランドを眺めた。神戸空港に飛行機が着陸する様子を間近で見ることもできた。
夕方には、新入社員の子と阪神甲子園球場に足を運んだ。野球に詳しくない私の横で、その子は丁寧に解説をしてくれた。
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その日はチームに勢いがあった。プロがヒットやホームランを多く放ったゲームは、とても見応えがあった。六甲おろしやヒーローインタビューを聞き、貴重な機会となった。帰りには、ショップで記念にグッズを購入した。
次の日は、会社の別の後輩と、久しぶりの再会を果たした。オシャレなスペイン料理屋での食事後、異人館巡りをし、ファミリーレストランで軽食をシェア。田舎では味わえない、贅沢な時間となった。
少し行動範囲を広げるだけで、スタイリッシュな街に辿り着くことができる。その街こそ、神戸だ。アクセスも非常に良い。中華街、神戸牛など、グルメタウンでもある。何日滞在しても飽きない。神戸の地に知り合いができたため、これからも縁は続くはずだ。何年経っても、私にとって忘れられない街であり続けるだろう。