2018年の夏、わたしはメルカリをはじめた。
それが彼女との出会い。
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わたしは20代にして、「死」を見据えて生きている。
物を残して死ぬことは、残った家族にとって厄介だと思う。
亡くなった人の思い出に浸りたい人にとって、遺品は捨てづらいだろう。
かといって、誰もが広い家に住んでいるわけではない。
場所に限りがある中で、遺品をすべて置いておくわけにはいかない。
ならば、持ち物を必要最低限にしておくことが重要だと思った。
問題は、わたしの強いもったいない精神。
物を捨てることができない。
だから売ることにした。
それがメルカリをはじめたきっかけ。
最初はとても手間取った。
郵便も宅配も、利用したことがなかったから。
発送に手間取ったわたしは、購入者に「どうやって発送したらいいですか?泣」なんて聞く始末だった(良い子はマネしないでね)。
かなり調べたつもりだったが、それでも送り方がよくわからなかったのだ。
わたしだったら「そんなこともわからないのに出品すんなよ」と思ってしまいそうだが、その購入者はとても親切に教えてくれた。
無事に取引を終える頃には、相当な量のメッセージを送りあっていた。
とても親切で人柄もよく、間に挟んだ雑談も楽しかった彼女ともっと話したいと思い、思い切ってLINEを聞いてみた。
ダメ元だったが、教えてくれた。
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とても親切に送り方を教えてくれた理由は、聞いたら思わず笑ってしまった。
「メルカリの初心者は相場がわからず格安出品することが多く、(わたしの出品物も)破格だったからどうしても欲しかった!(笑)」らしい(笑)。
そんな彼女とは、いろいろなことを話した。
彼女はわたしより1つ年上で、子どもがいること。田舎に住んでいること。
わたしとは生きている世界が全然違う人だった。
わたしは都会に住んでいて、同級生には既婚も子持ちもほとんどいない。
対して田舎では、この年で未婚の方がレアらしい。
生きている世界が違えば、常識も異なるのは当たり前。
彼女とは、生きていく上での大前提が全然違った。
それなのに、不思議と話が合った。
特に、恋愛の話をはじめると話が尽きない。
お互い聞いて欲しいことがあるときは、夜中から明け方までLINEをし続けたことも一度や二度ではない。
毎日たくさんのことを話して、生活のほぼすべてを共有していた。
わたしも彼女も、お互いの職場の人を全員把握していたし、お互いの生活費や給料、それから貯金なんかも話していた。
今まで、誰かにお金の詳細を教えたことはない。
彼女だけが特別だった。
彼氏には見せられないような酷い肌荒れも、頭がハゲてないかのチェックのために頭頂部の写真も、送り合ったりした。
彼女には、文字通りなんでもさらけ出せた。
生きてる世界も常識も違う人と、こんなに分かり合えることに驚いた。
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そんな彼女とは、ときどき喧嘩もする。
意見がぶつかるときは、とことんぶつけあって仲直りする。
わたしがもし男だったら、彼女と結婚したかった。
「いつか会おうね」とずっと言っているが、コロナやなんやかんやでいまだに実現していない。
写真でお互いの顔は知っているものの、面と向かって顔を合わせたことは一度もない。
ちょっと不思議な関係のわたしたち。
だけど必ず、死ぬまでに絶対彼女に会いに行くと決めている。
わたしは、彼女に会うまで絶対に死ねない。
ちなみに、「こんなに簡単に素敵な人に出会えるなら」と、メルカリで話が合った他の購入者とLINEを交換したこともある。
だが、結局続かなかった。
それ以来、メルカリで連絡先を聞くのはやめた。
彼女との出会いは、文字通り運命だったのだと思う。