わたしには、お礼を言いたい人が2人いる。
1人は、わたしの世界を変えてくれた人。
もう1人は、顔も名前も知らない親切な人。

わたしは、奢ってもらうことができなかった。
相手が年上だろうが、男性だろうが、立場に関わらず、奢ってもらうことに強い抵抗があった。年上の彼氏とは、いつも割り勘だった。彼は奢ると言ってくれるのだが、それをわたしが嫌がった。
「お願いだから」と1円単位で割り勘させてもらっていた。
母からは「毎回割り勘する女なんて可愛くない」と怒られていた。

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そんなわたしを変えた人がいる。
とあるツアーに参加中のある夜、おしゃれなバーへ飲みに行った。当時わたしは学生で、周りには多くの社会人がいる中で、帰り際に「自分が飲んだ分は払わせてください」と、ごねた。
そんなわたしに、「ここはわたしたちに払わせて。お礼がしたいなら、今度はあなたがこちらの立場になったときに出してあげて」と彼女は言った。
「『恩送り』って言うのよ」と、教えてくれた。
はっとして、その場は引き下がることにした。この言葉は、わたしの人生を大きく変えた。

恩送りとは、誰かから受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の人に送ることだそうだ。
わたしは、納得できないといつまでも引きずるタイプで、納得できないことは、何度言われようと全然聞かない。だけど、不思議と今回はとてもストンと胸に響いた。
それ以来、わたしは必要以上に割り勘を求めなくなった。

年上の人とご飯に行って、いいよって言われてるのにお金を出したり、無理やり一部だけでも押し付けたり、一切しなくなった。
逆に、後輩など下の子たちには、お金を惜しまなくなった。
「あのとき、◯◯さんに奢ってもらった分、この子に返そうー」と気軽に考えるようになり……調子に乗ったわたしは、後輩5〜6名を連れ、3000円/人以上のご飯や盛大に誕生日をお祝いする等し、すべてのお財布となったこともある。当時大学生だったわたしは、人生で初めて、1日に3万円以上消費した。あれは正直やりすぎた。散財し過ぎたけど、楽しかったいい思い出。
恩送りを教えてくれた彼女のおかげで、わたしの世界は変わった。

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時は変わり、海外に旅立つ当日のこと。
現地通貨の両替用と、日本で何かあった時用に、1万円札のみを携帯していた。
バスを降車するとき、小銭も交通系ICカードも持ち合わせていないことに気づき、両替しようとした。ところが、バスの両替は1000円札と5000円札にしか対応していなかった。
どうしよう。たまに、親切な運転手さんが私物らしきお金で両替してくれることがあるのだが、この日は運悪く、そんなことはしてもらえなかった。
だけど、お金は1万円札しかないし、旅行のため朝も早く、銀行も開いていなかった。
そんなとき颯爽と現れた、わたしの後ろに並んでいたと思しき女性、「これを使いなさい」とバスの回数券をわたしに渡し、さっさと降りてしまった。
「……え?」
呆然としながらバスを降り、慌てて彼女を探したが、もうどこにもいなかった。
一瞬の出来事に固まってしまい、お礼も言うことができなかった。彼女にお礼を言えなかったことを、今でも後悔している。

もし、これを読んで、心当たりのある方がいましたら、ぜひコメントください。
正確には憶えていませんが、確か2015〜2018年頃の寒くない時期の出来事だったと思います。

もし、彼女にお礼を言える日が死ぬまで来なくても、わたしは彼女にもらった親切を、この先誰かに「恩送り」で返そうと思う。

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わたしに奢ってくれた、恩送りを教えてくれたお姉さん、ありがとうございました。
あなたの言葉で、わたしの考え方は柔軟になり、人生が豊かになったと思います。
わたしにバスの回数券をくれた女性、本当にありがとうございました。
わたしもあなたのように、困っている人を助けられる人で在りたいと思っています。
いつかまた、直接会ってお礼が言えることを願っています。