20歳の2月、恋人との生まれて初めての旅行のために、福井へと向かっていた。
まだまだ寒さが厳しい街並みを眺めつつ、恋人と写真を撮ったり、とりとめのないおしゃべりをしながら、幸せをかみしめていた。

旅の予定は、ふたりの気持ちできらきらしていた

福井に着くと、空は気持ちのいい快晴、あたりは真っ白な雪で覆われていた。
普段雪のあまり降らない地域に住んでいる私たちは、ひとしきりはしゃいで、手作りの旅のしおりを開く。
行きたいところ、絶対にやりたいことをリストアップして、細かく時間まで書いたそれは、2人の気持ちが反射して、とてもきらきらしていた。

はじめは恐竜博物館。定番といえば定番だし、家族と来たこともあったので、少しの不安も混じっていた。
だが、入館後すぐにそんな不安は吹き飛ばされることになった。あまり目を輝かせることの多くない彼が、興味津々に私の手を引いていく。その姿が愛おしくて、嬉しくて、心が躍るというのはこういう感覚なのだと、初めて知った。

そのあとは、飲み屋通りにぽつりとある足湯や、前もって調べておいた和菓子屋さんへ行ったりして、少しずつ、だけどいつもよりも駆け足で時間が過ぎていった。
1泊2日だったので、翌日もしおりを基本にミュージアムや食べ歩きをしながら過ごした。
お茶目な性格の人だったから、どの瞬間にも笑顔があった。
人生初の恋人との旅は、そんな感じで何でもない話も、そうじゃない話の時も、ずっと2人で笑いあっていた。

一目惚れした本のしおりと、彼の優しさ

お土産をめぐっていた時に、蒔絵のとてもきれいな本のしおりと出会った。
元々読書は好きで、どこかでしおりを買いたいと思っていたのでじーっと眺めていたら、「きれいだね」と後ろから彼がささやいた。
柄にはいくつか種類があって、優柔不断な私はぱっと決められなくて、また時間があったら戻ってこればいいとその場をあとにした。

結局、しおりをもう一度見ることはなく、若干の後ろ髪をひかれながらも私たちは岐路についた。
「すごく楽しかったね」
と私が言うと、うんとうなずいて、彼がにっこり微笑んだ。それだけで十分に幸せだと感じて、彼の肩にそっと頭をのせる。

すると、彼がすっと反対の手から小包を取り出して、私の手のひらに置いた。
「これ、欲しかったでしょう?」
袋が破れないようにそっと開けると、あのお店で初めに見ていたしおりが覗いた。

驚いて言葉の出ない私に、彼はもう一度にっこりと笑って。
「一緒にいれて、幸せだね」
と耳元で小さく言った。

あの頃の思い出は、本のしおりとともに

あれからもう4年半の月日が流れた。
彼とは旅行からわずか半年足らずでお別れをし、それ以来全く連絡は取っていない。
あんなに大切だと思って、いとしく思えた人は彼が初めてだったけれど、最後はお互いに色々なタイミングや気持ちがずれて、自然に近い形でさようならをした。

彼からもらったプレゼントはもうほとんど残っていないけれど、未だにあの蒔絵のしおりだけは本の1冊に挟んでいる。
福井に行ったそのあとの旅行から、私はしおりを購入することがお決まりになった。
人並みに別の人とも恋愛をして、彼よりも長く一緒にいて、この先も一緒に過ごしたいと本気で思える人とも出会った。

だけど、なぜだろう。
本にこのしおりを挟むたびに、空気がツンとしているのに、とっても気持ちのいいあの日の晴れた空を思い出してしまう。空とリンクするような自分の気持ちも、もうずいぶん時間がたったのに鮮明に蘇る。

いつか、彼とは違う大切な誰かと一緒に行くことがあるかもしれない。
その時は、また別の空と、しおりに出会えるのかと、これから来る未来が少し待ち遠しい。