卒業式や失恋、悔しい思いをした時、長年勤めた会社を退職した時、夫と付き合うことになった時、新婚旅行などなど、私は大切な日に事ある度に泣いてきた。

泣き虫なのだ。もらい泣きはもちろんで、感動する映画を観れば、恥ずかしいが鼻水までも出てしまうくらい泣くこともある。子どもの頃、有名なアライグマが出るアニメを見て、主人公に置き去りにされてしまうアライグマのシーンで「おいていったらダメー!!」と号泣していたらしい。

また、父と母が軽い口論になっていた時も「やめてー」と泣きながら間に入ったこともあるらしい。ライブに行って思い入れのある曲の時もしっかり泣いた。
反対に嬉しすぎても泣く。夫とは復縁する際に結婚を前提に一緒になった。それまでの不安定な気持ちが軽くなり、ホッとして泣いた。

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そんな私だが、入籍した日と結婚式当日はなぜか泣いていない。
入籍したのはまだ引っ越す前で、まだ前の会社を退職する前だった。本来は退職をして引っ越しを終えた状態で入籍したかったのだが会社の都合でそうはいかず、入籍日だけは予定のままにした。その為、朝、夫に迎えに来てもらって他の用事を済まし、がらんとした新しい部屋で婚姻届を書いた。バタバタと実感がないまま書き終え、役所に向かった。

役所も慣れた手つきで処理をしてくれた。役所内にそれ専用のフォトスポットがあり写真を撮ってもらったが、見返すと2人とも緊張しすぎた顔だった。

入籍をした半年後に結婚式を挙げた。
2日前からの台風の影響で、前日まで新幹線や電車が止まってしまうくらいの悪天候だったが、当日はそれがウソのようなきれいな青空の日だった。会場はコンパクトだが、眺めが良いところで入場した時のゲストと綺麗な花で飾られた会場、ガラス張りの向こうに見える青空は今でも鮮明に覚えている。

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私は元々、結婚式を挙げなくてもいいなと考えていた。自分たちの為にお祝儀や時間を使ってもらうなんて考えられなかった。夫がやりたいというのでそうしたが、今は結婚式を挙げて良かったと思っている。
入籍してから半年間で打ち合わせと衣装合わせなど準備をした。決める事が山積みだったが楽しかった。特に衣装合わせでは特に希望がなかったが、実際行ってみるとどんどん欲が出てきた。

母と姉2人とで衣装決めに何度か行った。1着目を試着した時、やっと「結婚したのか」と少し実感した。それを見た母も同じような気持ちだったと思う。夫が当日までドレス姿を楽しみに取っておきたいとのことで、それまで内緒にしていた。

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当日初めてのドレス姿を見た夫は恥ずかしそうに嬉しそうにしていた。それまで見たことの無い表情の夫ばかりで新鮮だった。
私の誕生日が近かったため、サプライズで夫からプレゼントをもらった。それぞれの両親には感謝の意味を込め、ウエディングケーキの「あ~ん」をした。入場曲・退場曲を選ぶとき、想像の中では泣くだろうなと思っていた。
だが泣かなかった。自分でも驚いた。泣いてメイクがぐしょぐしょの写真が残らなくて心底良かった。多分、緊張しすぎて感動していられなかったのだと思う。もちろん良い思い出だ。

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もう一つ想像外だったのが、息子を出産した時だ。
よくドラマなどで出産後すぐ泣いているシーンがあるので、私も絶対泣くだろうなと思っていた。だが実際は3日後に大泣きした。当日はまだ実感が持てていなかったと思う。

その後、息子と過ごすうちにだんだんと実感してきて、「本当によく産まれてきてくれたな」と痛みや不安だった気持ちを思い出しながらホッとしたのをよく覚えている。その時に、入籍や結婚式のとき泣かなかったのは人生で味わったことの無い気持ちだと感じた。

それを実感してからは、ニュースやドキュメント、マンガ、ドラマなどで感動的な結婚式や出産に触れると、「あぁそうだったなぁ」と涙目になっている。
新しい感覚や感動に触れる事は人生を豊かにしてくれると思う。