小学校4年生の時、とても仲良しの女の子がいた。
色白で儚げな印象の、けれど天真爛漫で猫のように気まぐれで。私の思惑通りに笑ってくれなくて、笑わせるために全力になってしまうような人だった。笑わせることに成功すると、なんとも言えない快感を得られてしまう。そんな友人だった。

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5年生になってクラスが変わると、そこからは疎遠になった。私の姉と彼女の兄が同級生だったこともあり、彼女の話はときどき耳にしていたけれど、小学校を卒業してからは一度も会うことはなくて、久しぶりに会ったのは、小学校が主催する「成人の集い」だった。
そこからまた、私と彼女との交友が再開することとなった。
成人式の後、姉を介して彼女の兄から「遊んであげて」という言付けがあった。その言付けを不思議に思いながら、私は彼女と、時々会うようになった。

私の中に強烈に印象付いている小学校4年生の時の彼女との記憶と、あまりにも違う彼女との交友は、ただ戸惑いが多かった。
本当に彼女は私と会って楽しいのだろうか。私は本当に彼女と会って楽しいのだろうか。
彼女は会おうと誘うと応じ、ここへ行こうと提案すると全て合わせてくれる。会話も弾まなければ、笑顔で話題を必死になって考える。お互いにあの頃のような無邪気さもなければ、会わなかった期間に、お互いがどんな青春を歩んでいたのかも知らない。けれど彼女と会うたびに、彼女の兄から「また会ったげてな」という願いが届けられて、私は謎の使命感に追われて彼女との友情を育もうとした。
彼女は私の特別な友人の一人で、私も彼女にとって特別な友人の一人であると、今になってそう思おうと必死になっていた気がする。

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それから私は留学と病気、帰国の経験をして、久しぶりに彼女と会った時、待ち合わせた場所で目があっていたのに彼女に気づかないで、彼女の目の前を通り過ぎた。一瞬、誰かわからないくらい、彼女は綺麗になっていたのだ。
そして「実は結婚することになりまして……」と報告を受けた。その瞬間、お祝いする気持ちよりも先に、もっと違う感情が過ぎった。

なんで私は何もしらんの?
なんで私より先に結婚するん?
なんで幸せになってるん、私が苦しんでる時に。
相手はどこの誰なん?
どこで出会って、いつから付き合ってるん?

詰問しそうになる心の奥にいる自分を飲み込んで、代わりに祝福の言葉を絞り出した。結婚式に出席することを快諾して、結婚祝いに彼女が好きな曲を演奏して録音したCDをプレゼントした。

結婚式の私の席は、最前列の友人席にあった。そのテーブルは、私を含めた小学校の友人が2人と、中高の部活の友人で占められていた。彼女の友人代表のスピーチをしたのはそのうちの1人。その友人が発表する彼女との友情エピソードは、私を惨めな気持ちにした。そして彼女がその友人に向ける微かに見覚えのある無邪気な表情に、また悲しくなった。

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私が気を遣って誘わなくても、ちゃんと友達いたんやんか。
そんなドロドロしとした気持ちを誰にも知られないように、まるで心から楽しんでいるように振る舞い、彼女と初めて見る彼女の旦那さんと写真を撮ってもらったり、彼女の親族に挨拶したり……。3回のお色直しに、豪華な食事。信じられないくらい豪勢な結婚式だった。そんなことにもまた小さな嫉妬心を芽生えさせて、式が終わる時は「振袖って辛いね」と足早に会場を出て、急いで振袖を脱いで帰路に着いた。

そのあと私は「新居に遊びに行くね」と言い、彼女もまた洋服屋さんに就職した私に「職場、覗きに行くね」と言った。
私は彼女の新居に行く予定を考えたこともなければ、彼女もきっと私の職場に来ることはないのだろう。私たちはお互いに何の期待をしているのだろう。
あの1年間の2人の思い出はいつまで経ってもキラキラと思い起こされるけれど、これからまたあんな思い出を作るのは、私にはできないような気がするのだ。