2年半ほど前、私は好きな業種の仕事に転職した。
仕事の環境に大きな不満は無かった。気の合う同僚や仲良くしてくれる主婦さんたちのことは大好きだったし、好きなものに囲まれた空間を気に入っていた。
ただ、給与面では若干の不安があった。

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ある時、なんとなく興味のありそうな転職先を探していると、一度短期でバイトをしていたことのある子ども関係の職場が、新年度からの求人を出していた。締切を見ると、2日後必着だった。23時、私は今すぐにでも眠れる格好でいた。

もちろん履歴書なんて手元にない。履歴書に貼る証明写真だって撮りに行かなければない。それだけならまだしも、テーマの決まった小論文も出さなければいけなかった。速達で送ったとしても明日中に出さなければ間に合わないだろう。見つけたタイミングが悪かったな、と思った。

私は何かにつけて言い訳やそれらしい落とし所を見つけるのがうまかった。長所でもあり、短所でもある。どうにもならないことを受け入れるためには役立つが、一方で諦め癖のようになってしまうこともあるからだ。
今から急いで、適当な文章を書いて送って恥をかくこともないか。資格こそあっても、短期でバイトをしただけで、大した現場経験のない人間が採用されることはないだろうな。
でも、それらしい言い訳を言うなら、それなりのことをしてからでもいいはずだ。というか、この時間が勿体無い。現場経験も時間もないが、よく考えたら失うものもない。やるだけやってみよう。
今の人間関係の良い職場を離れるのは正直嫌だし、不安だった。でも、居心地のいいところに居続け、薄給を受け入れ自分の評価に疑問を持つのはもっと嫌だった。そして、ここでの楽しい思い出があると考えたら、新しいことに挑戦することもできると思えた。

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私は急いでメイクをし直し、スーツのジャケットを引っ張り出し、コンビニで履歴書を買いに行った足で証明写真を撮りに行った。コンビニで履歴書が買える、スピード写真が24時間撮れる(しかもオプションの美白効果のおかげで思った以上にちゃんと撮れる)環境に感謝するしかなかった。
そして、今までそこまで使えないと思っていた特技、履歴書一発書きがここで活きた。なぜだか、大事な書類や文を書く時、ある種ゾーンに入ることができ、よっぽどのことがない限り下書きがなくても書き損じない。余計なところに能力を振ってしまった。

この時点でとっくに日付は変わっているのだが、明日も仕事に行くので論文も今書くしかなかった。終わったのは明け方だった。
正直何を書いたかはっきり覚えていない。しかし、書類は揃い、締切1日前に出すことができた。書き終わっただけで結果も出ていないのに、最近で1番の達成感だった。

勇気を出した甲斐があり、今年度から新しい職場で働いている。
新しいことを始めるのには、本当にいつだって、いくつになったって勇気がいる。あの時急いで書類を揃えず、このままの仕事をしていても、私はそれなりに楽しくやれていたと思う。しかし、どこかで上がらない給与に疑問を持ちながらもやもやし、あの時書類だけでも出しておけばと思ったりはしただろう。

今の仕事は環境も良く、仕事自体もとてもやりがいがある。経験が浅いからこそ、疑問に思うことを見逃さないように子どもと接するように心がけている。子どもには「どうしてこの仕事についたの?」と聞かれるたびに、すごい速さで色々頑張ってみたから、色んなこと、もういいやって投げ出さないでとりあえずやってみると良いことあるかもよ、と言ってみたりしている。