中学2年生のとき、サッカー部の部長のことをずっと目で追いかけていた。彼は学校でも人気者で、みんなから好かれていて、サッカーがうまくて、キラキラしていた。ちょっとヤンキーなところもかっこよかった。

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一方で私は超がつくほどの優等生。勉強だけが取り柄で、「ガリ勉」なんてからかわれていた。それが嫌で、授業中にちょっと寝たふりをしてみたりしながらも、きっちり家で勉強して、きっちり毎回学年で一位を取っていた。
当時、半袖のカットソーを切るのはダサいという風潮がいつの間にかあって、それに気づいていなかった私はいつも半袖のカットソーを着ており、ダサいねと言われていたらしかった。

そんな中学時代の私にとって、サッカー部の彼はカッコ良かった。全然近づけなかった。
スクールカースト上位の彼と最下位の私。自分から声をかけるとか絶対無理で、ずーっとみてたら彼と仲のいい女の子に「キモいんだけど〜」と言われて、それ以来私は下を向いていた。
でも、たまたま隣の席になって、たまたまちょっと話せるようになって、ちょっといい感じになった。そしたら中学生によくある「お前ら付き合っちゃえよ〜」的なのりに流されて付き合うことができた。
私は携帯を持たせてもらえなかったから、彼のスマホから家の電話にかけてもらっていて、それがまたダサいって周りからからかわれて恥ずかしかったけど、こしょぐったいくらい嬉しかった。

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でもやっぱりスクールカーストが違いすぎる私たちは、普通に自然消滅した。「別れよう」も、「さよなら」も言わなかった。
ただ、何も言わずに帰った日を、私は別れた日だと認識している。彼の目線は感じていたけど、もうこれ以上劣等感を感じたくなくて、下を向いて自転車に乗って逃げるように校門を出た。長いスカートをはためかせながら。

中学を卒業して、彼は地元の誰でも入れるような私立男子高校に入学したと誰かから聞いた。私は県内一位の公立高校に進学した。
そこでは私の半袖のカットソーをダサいと笑う人はいない。自分と同じ優等生の子ばかり。これまでの人生で一番のびのびとできた。
中学校のときにはできなかった英語スピーチコンテストに出場した。好きなだけ自習室に残って勉強した。図書館に通って司書さんに本をリクエストした。グローバル企業の女性リーダーの本を英語で読んだ。海外留学プログラムに参加して、大使館でスピーチした。私は水を得た魚のようだった。

勉強して、勉強して、東大に受かった。新聞に載った。
みんなが馬鹿にしてた「ガリ勉」の私は東大に入ったよ。みんなが憧れている東京で生きていくんだよ。私の方が正しかった!

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成人式があり、帰省した。久しぶりにサッカー部の彼に声をかけられた。
彼はサッカー選手にはならず、地元の工場に勤務しているらしい。ずっと同じ地元の友達と、地元のイオンモールで遊んで、ダサいなって思った。こんな人たちと私は違う。
「東大に受かったんやってな!」
「うん、そうなの。たまたまね」
ちょっと優越感に浸りながら答える。ずっと下を向いていたあの頃の私はもういない。
「めっちゃきれいになったやーん!東京の女やな!」
あ、眩しいくらいまっすぐ。彼の目は、中学生の時と変わらずキラキラしていた。

彼が人気者だからじゃなくて、彼がサッカー部の部長だったからじゃなくて、その目を私は好きだったんだ。