新社会人になって2ヶ月も経たない頃、初めての彼氏ができた。
新しい生活が始まり、浮き立つ心のまま、よく飲みに行っていた同期との距離感がいつのまにか普通の友達のそれではなくなり、「私のことどう思っているのかな」と思い始めたところで「気が合うと思うし、付き合う?」と言われたのだった。

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しかし、楽しい時期はほとんど続かなかった。
「私でよければ、喜んで」と言ったものの、勢いに乗ってしまっただけで、本当に気が合うのかは疑問だった。頑張り屋なところは似ているけれど、私は結構ネガティヴ思考で彼はなんでもポジティブ。仕事が本格的に始まっていく中で、私は緊張感で気が滅入るようになってしまっていた。

一方、彼の配属された部署は忙しく、早くも残業が発生していた。話を聞いてもらいたいと思っても、夜いつラインの返信が来るかわからない。「仕事終わったら電話して!」と連絡をねだってしまったこともあったけれど、彼もくたくただった。うまくコミュニケーションが取れない日々が続いた。
そしてたったの3週間で「同期に戻った方がいいと思う」と言われてしまったのだ。

私の家に来たと思ったら、「ちょっとどうしようかなと思っていて」と。私も話し合いをしたかったから、わざわざ来てくれて安心したと思ったのも束の間。彼の話を聞けば聞くほどもう私のことを考える余裕もなく、これから考えるかもないんだと実感させられて、みぞおちのあたりがすっーーっと冷たくなる感じだった。
「もう少し長い目でみてもいいんじゃない」
「仕事を頑張りたい気持ちは応援しているよ」
「全部1人で勝手に決めてない?」
何を言ってもテコでも動かないような感じだった。

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(元)彼が帰ってしまってから、「ええっと私は……何をしたらいいんだ??」と考えだした私は、ずっと行きたいと思っていたジャズダンスのレッスンの予約をした。いつ彼に会えるかわからない状態だからと、なかなか日程を決められなかったのだ。
また、大学時代の部活の仲間との昼飲み会も企画倒れしかけていたことを思い出し、改めて日程を合わせるための連絡を取り始めた。
「あれ、なんだかやっと自分の時間が動き出したのかもしれない」と思いながら、先の予定を決めて行った。

喪失感とか、虚しさとか、自分はこの程度だったのかという悲しみがなかったわけじゃない。でもその失恋の痛みに浸ることができるほどの何かが2人の関係の間に無かったのも事実だった。

DMで話が続いていた友人に「いやー、彼氏できたんだけど3週間で別れたわ」と笑ったらすぐに電話が来た。そこから数時間にわたる反省会スタート。
「気持ちがダメになっている時にどうして欲しいのか、付き合いはじめるときにちゃんと言えたら良かったんじゃない?」と言われ、ああそうだなと納得した。「次への教訓にしよ!」と結論づけたあと、最後に友人は「本当に大丈夫?無理してない?」と気遣ってくれた。
ちょっと泣きそうだった。本当に持つべきものは女友達……!
でも涙は出なかった。今はまだどん底まで落ちる必要ない。ただ前に進もうと思った。

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仕事場には少しずつ慣れていった。新しいことに触れられる環境に日々、刺激を受けている。後期に担当先を持つことも決まった。夏休みは初の海外旅行に行ったり、何年も会えてなかった小学校からの友人たちと集まったりと非常に充実していた。ダンスも冬の発表会に出ることを決め、準備が始まっていくところだ。

彼とは、話し合いの末、もう一度やり直すことになった。思っていたことも心配なことも前に付き合っていた時に不安だったことも全部話した。今度はちゃんと話し合おう、2人で頑張ろうと言い合えた。
2人で会える日は多くないけれど、今はあの3週間の間の不安感が嘘のようだ。壁にぶつかることはこれからも沢山あると思うけれど、その時その時で自分の最善を尽くせればと思う。

私たちは、前に進むしかない。
だから私はあの時泣かなかったし、泣く必要もなかった。