生まれて初めての夢はケーキ屋さんだった。
理由は本当に単純で、ケーキが好きだったからだ。意外にもこの夢は高校生になる頃まで続いていて、他の夢に心が移ることがなかった。
そんな私が将来を見据えて本当に就きたい職に出会ったのは、高校1年生の時。今も自身の生き甲斐となっている「美容」に関する仕事だった。

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16歳、思春期。ちょっぴり背伸びしてお化粧してみたい年頃。慣れない手つきで下地を顔に塗り、スタンプのようにファンデーションのパフを押し当て、キラキラのアイシャドウを瞼にのせていく。鏡の中にいるのは学校にいる自分とは別人。少し大人びて見えるその姿に、当時の私は静かに興奮していた。

「ちょっと大人っぽく見える?流行りのメイクってこんな感じ?」
そんなことを思いながら夜な夜なメイクの練習をし、学校が休みの日には、背伸びメイクを施してよく遊びに行っていた。そうした生活をしていくうちに、私は少しずつ美容の魅力に惹かれていった。

メイクだけではなくスキンケア法や化粧品の成分なども調べるようになっていき、その中であることに気づいた。「どんなにメイクが上手くても、土台である肌が綺麗でなければもったいない」ということだ。そこから更に深く肌のお手入れについて調べるようになり、行き着いたのは美容クリニックのサイトだった。

当時高校生だった私は美容クリニックに行ったことがなく、家の近くにも無かった。もし施術を受けるとしても、親権者の同意や付き添いが必要なので、うちの親が許すはずがない。そう考えた私はひたすらサイトを見て勉強することにした。

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まだ若くてシミひとつ無い肌であったが、美容クリニックでのスキンケアに興味津々。口うるさい親にバレないよう、学校の勉強もしっかりとこなしながら、こっそり美容の勉強にも励んでいた。将来、美容クリニックでカウンセラーになるという夢を抱きながら。

これまで将来について家族と深く話したことがなかったため、自分の夢をすんなり受け入れてくれると勝手に思い込んでいた。しかし現実はそうではなかった。
なんと、家族は私に保育士になってほしいと言い始めたのだ。昔から小さい子の面倒をみるのが得意で、明るい性格の私にぴったりだと。そのために進学して国家資格を取ってほしいと。

予想外の発言に頭が真っ白になった。保育士になるのが嫌なわけではないが、ここでその要求を受け入れてしまったら、私のこの感情は、「美容が好き」という気持ちはどこに行ってしまうのか。難しいことを考えるより先に、口が動いていた。
「嫌だ。無理。私、美容の仕事に就きたい!美容クリニックでカウンセラーの仕事したいの!」
今度はうちの家族が驚く。そりゃそうだよね、初めて言ったし。
その言葉に対しての返答はやはり「ダメ」の連続。昔から頭が堅いうちの家族は、資格が無ければ生きていけないという考えなのだ。

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来る日も来る日も説得し続けた。季節が巡り進級し、本格的に進路を決めなくてはならないその瞬間まで。すると、ついに父が折れたのだ。ただし、条件付きでだった。
「美容の仕事が辛くなった時のために、他の資格も取ること。それができるなら進学を認める」
そう言われた瞬間、今までの努力が報われたような気がして、心の底から嬉しかった。まだ美容の仕事に就いたわけではなかったが、やっとスタートラインに立てたという感じだった。

父との約束を果たす為、私は医療事務と美容が勉強できる専門学校へ進学した。私の夢を後押しし、認めてくれた家族に感謝するとともに、勇気を出して夢を伝えたあの時の自分にも「ありがとう」と伝えたい。