私は昔から可愛いものが苦手だ。
レースやフリルなんかを見ると、「私に似合わない」という思いが先行する。服屋で見かけようものなら、真っ先に購入の選択肢から外してしまう。着ている自分を想像すると、どうも“らしくない”と思ってしまうのだ。
その原因はきっと、幼い頃の家庭環境にあったのではないだろうか。
私には、出来の良い兄がいる。小さな頃から、兄と比べられて育ってきた。
兄と比べると、勉強も運動もまるでダメだった。周囲から、「お兄ちゃんは出来たのに」が決まり文句。当時の私は、コンプレックスの塊だった。
何をやっても兄ばかり誉められる。そればかりか、両親は兄に一切手伝いをさせなかった。これには幼いながらも腹を立てた。しかし、「あなたは女の子なんだから」と一蹴されてしまった。
「女の子だからなんだよ」
その頃から“〇〇らしさ”に対する反抗心が芽生えていた。
◎ ◎
「女の子なのに」が両親の口癖だった。手伝いをさせる際も、「女の子なんだからやりなさい」「女の子なんだからもっと可愛い格好にしない」と格好にも口を出す。口答えなんてすれば、「女の子なのに可愛げがない」。
別に好きで女の子に生まれたわけじゃない。いつの間にか、女の子らしさを求める両親たちに嫌気が差していた。それから私は、女の子が好きだと思われるもの全般を毛嫌いするようになった。
ピンクの小物にスカートは死んでも絶対に選ばない。親の望む理想の女の子になんてなるもんか。鉄の意志で、私は長年我が道を進むこととなった。
決して、おしゃれが嫌いなわけではなかった。ただ、女の子らしさに苦手意識を抱えているだけだ。完全にこじらせた私もいつの間にか結婚し、あの頃から随分な月日が流れていた。
結婚式の際は、「私らしくない気がする」とドレス選びでプランナーを困らせたりもした。依然として、女の子らしさの呪縛から逃れられないでいた。
もう今更、この呪縛が解けるわけない。そんなふうにさえ思っていた。友人から、ある誘いを受けるまでは。
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「骨格診断、受けてみない?」
大学から付き合いのある友人が誘ってくれた。
骨格診断とは、一人一人の骨格によるスタイルによって似合う服や素材を知るための理論らしい。自分のことを知るのに良いきっかけかもしれない。軽い気持ちで行くことにした。
いざ、受けてみると私は骨格ウェーブというスタイルであった。ズボンよりスカート、柔らかい素材が似合うらしい。女子アナのような格好を想像していただければ良いだろう。
そう、今の私と正反対のスタイルだ。雷に打たれたような衝撃だった。
「絶対無理!」
今まで着たことのない系統の服を着るのは、とても勇気がいる。実際に着てみたら、どう思われるだろう。もしかしたら笑われるかもしれない。周りの反応を想像すると、躊躇してしまう。
でも似合う服装もしてみても良いかも。意を決して夫に相談することにした。すると夫は「良いんじゃない」と軽く答えた。
「変じゃない?」
「前から思ってたけど、似合うと思うよ」
あまりにもあっさりと言ってのけるので、拍子抜けしてしまった。
自分がどうこう思うより、周りにとっては案外どうでも良いのかもしれない。もっと肩の力を抜いて、挑戦していっても良いのだろうか。不安に思いながらも、骨格診断に基づいた服に袖を通した。
◎ ◎
意外とイケる。実際に着てみると素直にそう思えた。
あれだけ私らしくない、似合うはずないと騒いでいたのはなんだったのだろう。ふんわりとしたスカートに気恥ずかしさを覚えるけど、それも悪くないと思い始めていた。
もっと挑戦してみよう。今までの私も好きだけど、今の私も悪くない。過去の私に今の私を見て欲しいぐらいだ。周りの目なんて気にせず、色々なことに挑戦しても良いのだと。
今となっては、骨格診断に行こうと誘った友人も、背中を押してくれた夫にも感謝しかない。
自分にかけた呪いは、自分で解くしかない。長い時間をかけて、ゆっくりと私は自分にかけた呪縛をようやく解いた。
まだまだ気恥ずかしさもあるし、私らしくないと思うことが多々ある。それでも、私は服やメイクを通して色々な私を発見したい。自信を持ちたい。長い月日をかけてでも、まだ見ぬ新しい私に出会っていきたい。
そうすることが過去の私に対して、〇〇らしさの呪縛を解く唯一の方法なのだから。