まだ私が妊娠する前、スーパーマーケットのレジで働いていた2年ほど前の事だ。
平日の午後、店内にお客さんはまばらで、担当していたレジからお菓子コーナーを眺めていた。2人の子どもを連れた30代前半くらいのお母さんが買い物をしている。上の子は4歳くらいで、下の子はまだよちよち歩きの2歳くらいだったと思う。

レジに向かってきていたので、お会計かなと構えていた。すると上の子が出口に向かってダッシュし始めた。出口を出るとすぐ駐車場で「危ない!」と思い、お母さんの方を見ると下の子もいるのですぐ追いかけられないでいた。
その時しっかり目が合って、お母さんが「下の子とカートお願いします!」と言っているように感じ、私は頷きそれを引き受けた。その後すぐに上の子は確保されて、無事にお会計に進むことが出来た。
特にそのお母さんとの会話も無かったが、我ながらとても良い連携だったと思う。

◎          ◎

今、子育てをしている中で、出掛けた時にそれまでとは違ったところを気にしていることに気が付く。息子は首が座り寝返りが出来るようになり、ずりばいの練習真っ最中なので、外ではベビーカーか抱っこ紐の中だ。
ひとりで動けるようになった子や好奇心旺盛な動き回る子、2人3人子どもを連れたお母さんに出会うと、「大丈夫かな?お疲れ様です」と心の中で言っている。
また、妊婦さんも同様である。自分が妊婦の間はあまり気にせず、動き回っていて、周囲の人から「大丈夫?無理しないでね」などと言われていたのと同様で、見ている方が心配で助けてあげたくなる。
ついこの前もエスカレーターで2人の子どもとお母さんの後ろに乗っていた。降りる寸前、1人の子どもがしゃがみ手をついた。全然すぐに届かない距離なのに私の両手が前に出て、何かを止めようとしていた。お母さんがすぐに気が付き、事なきを得た。

母親になるとマミーブレインという、産後ボケがあるという。私も何をしようとしていたかすぐ忘れ、物の名前が出ず、夫との会話が成立しない事があった(夫曰く、産前からだといわれたが、あそこまでひどくはなかったと思う)。
けれど多分マミーブレインは子の危機に対応出来る能力の反動だと思う。そこでバランスを保っているのだと思う。元々女性の方が何かを察したり感じ取り共感しやすいというが、母親になるとその感覚がレベルアップするような気がする。

◎          ◎

一緒に暮らしている義母と義祖母は、普段は少しキツイ性格だが、私が初めての子育てで悪戦苦闘しているのを近くで見ているので、要所要所で確実な優しい言葉を掛けてくれる。同じように経験しているからこそだと思う。
息子を産むまでは家庭内の家事をしっかり役割分担していたが、産後思うようにならない事が増えて、臨機応変になった。お義母さんと相談せずともその日毎に出来る事をやらせてもらっている。

この家に引っ越してきた当初は、生活スタイルが違いすぎて同居という選択をして誤ったかなとも感じていた。実家ではだいたいリビングにみんな集まって過ごすが、今の家は必要のない時はそれぞれ自室で各々の好きなことをして過ごす。
産後息子がぐずり、どうにも泣きやまないときには応戦してくれるので、そのあたりの線引きもありがたい。今は同居で良かったと心の底から思っている。
いつも簡単な物ばかりでなかなかきちんと食事が出来ない私に、「余ったから」と手作りの美味しいおかずを分けてくれる義祖母にはとてもお世話になっている。

◎          ◎

私の性格で夫と息子との3人暮らしを想像すると、今のように心穏やかにいられないと思う。育児をする中で無駄に自分を責め、どんどん内向的になっていってしまうと思う。
もしかしたらお義母さんたちも同じように思っていた時期があったのかもしれない。多分お義母さんたちなりに、今の生活の軸の中には自分を大切にすることがきちんとあって、その上での今の生活スタイルなのだと思う。性格が1ミリも合っていないと感じていたが、実は似ているところもあるのかもしれないと感じた。
女同士というのは、男女とは違って、何か自然と分かり合えることがあるのだと思う。