ブブッ。
左手のアップルウォッチに届く無数のメッセージを真顔で眺める。
自分で始めたことなのに、少しだけ嫌気がさすものの、無碍にできず返信する。
私がしたかった恋愛とはこんなものなのだろうか。
◎ ◎
マッチングアプリ。
誰でも気軽に出会える電波で始まる恋愛。
昔は出会い系と敬遠されてきたが、今では恋愛市場における重要ポジションを勝ち取っていると言っても過言ではないだろう。
かくいう私も無性に恋人が欲しくなるたびに何度もアプリをインストールし、複数の相手とメッセージをやりとりしてきた。
しかし、電波越しのメッセージというものにどうしても信用性がない私は、いくら容姿を褒められても、あまり嬉しくなく嫌悪感の方がむしろ強いまであり、意外とターゲットとして認識してないようなやりとりの方が続いたりしてきた。
しかしだらだらと続く生産性のない会話に徐々にめんどくささを感じ、結局はブロックしてしまうのだ。
そんな私も、かつて一人だけアプリでのやり取りを経て、実際に食事をしたことがある。その人はあまりがっついた感じがなく、まったりとしたやりとりが進んでいたが、実際に会うまでの間に電話をしたり、適度な刺激に私は久しぶりに恋愛的楽しさを感じていた。会う日は久しぶりにドキドキしたし、何かが始まるかもと高揚感を感じていた。しかしその熱も、約束の場所で立つ彼をみた瞬間、氷点下まで下がったのを感じた。
「この人、身長盛ったな」
ヒールのない靴でいった173cmの私と、ほとんど変わらない目線で彼と目が合う。
◎ ◎
軽く話しながら、彼が予約してくれていた創作和食のお店へと入った。食事やお店の雰囲気自体はとても良かった記憶がある。しかし今思えば、本来の美味しさや雰囲気を最大限感じることができなかったのだろうとも思う。
2時間ほど彼と食事を共にし、いいタイミングで解散した。
「次もまた会えるといいな」
解散直後に届いたそのメッセージを、未読のまま、私は彼のLINEをブロックした。
彼との次がなかったのは、身長があまり変わらないことではなかった。
明らかに嘘を書いていたことが私の信用を失ったのだった。
ただのわがままのように聞こえるかもしれないが、液晶に映されるあの世界では、出会うことも関係を断つことも容易く、かつ相手が自分に対して感じた違和感を認識することも挽回することも難しい。そのまま進めばあっという間に関係は終了、もはや一歩間違うとゲームオーバーな過酷な世界だとさえ思う。リアルで出会って、人を好きになるという恋愛とは明らかにその人自体の内面や想いが見えにくいこの恋愛のことを、何て重さのない恋愛なのだと、不意に激しく悲観的になってしまう。
◎ ◎
もちろんその中でも本当に好きな人を見つけ、結婚する人も多いのだから、この意見が全てではないのだろう。単純な向き不向きの問題なのかもしれない。
そう思えば、おそらく画面越しの人間への違和感を感じた時点で信用できなくなる私は、この手の恋愛に不向きなのだろう。しかしそれでも、何度アンインストールしても不意にまたインストールしてしまうというのは、スマホの中に希望を見出しているのかもしれない。
社会人になり、関わる人間もある程度決まってきた中で誰かと新たな関係を紡ぐ手段の一つとして、これからも気まぐれにネットの海を彷徨い続けるだろう。
存在するかもわからない私の満足する宝物を目指して。