どうせ男なんて浮気するものだと思ってた。
周りから「本当にジジは男見る目ないよね」と言われるくらい男運がなく、恋愛に浮気は付き物だった。
学生の頃から社会人一年目の夏までの約三年間、お付き合いをしていた彼がいた。
彼は私より一つ年下であったが、人生経験は私より豊富な人で惹かれる所が沢山あった。

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出会いは、私が友人と一緒にいた時にナンパをしてきた他校の男子集団の中にいた一人だった。
正直、その時の彼の印象は全くない。
連絡先を交換して話していくと、第一印象で私に好意を寄せていてくれていた事を知った。
それからすぐに予定を合わせて二人きりで会うことになった。

高校二年生の冬。雪が降る帰り道、彼から告白された。
そんな気はしていた。俗にいう、「匂わせ」を感じていたからだ。
それは私の友人も感づくくらいだった。
仮に告白されたらどうするのかという話も事前にしていた為、返事には時間がかからなかった。
「とりあえず付き合ってみなよ」
友人が言った言葉だった。

後に、彼には現在進行形で付き合っていた彼女がいることを知る。
そう。私は二番目の女だった。
そこで辞めれば良かった。でも、もう遅かった。
彼に対する気持ちは、日に日に大きくなっていた。

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彼とはしっかり話してけじめをつけてもらって、選んでもらった結果は私だった。
他校で住んでる場所も違って、会えるのは限られていたけれど、毎日連絡を取り合って、会える日はデートをした。
三か月記念日を迎えた日、彼の浮気が発覚した。
一度の過ち。私は許した。

それでも彼は、二度・三度。同じことを繰り返した。
その度に、申し訳なさそうに謝る彼を私は何度も許した。
その時には、完全に依存していた。
周りからの声は、私には響きもせず届かなかった。

一緒に過ごした約三年間、彼の事を嫌だなと思う事はあったけれど、嫌いになった事はなかった。
どんなに傷つけられようと、身体的にボロボロにされても、酷いことをされても、大好きだった。
離れたくなかった。都合のいいように扱われてもいいから一緒にいたかった。

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社会に出て、大人の世界を見たときに私は目が覚めた。
別れは辛かったけれど、「お互いのため」そう思って前に進んだ。

彼の夢を沢山見た。何度も別れを切り出した自分を悔やんだ。
違う人とお付き合いをしても彼を超えられる人はいなかった。
その度に友人は「時間が解決してくれるよ!」と、口をそろえて励ましてくれた。
でも私は、時間が解決するなんて信じられなかった。

別れて、一年半の月日が経った頃、久しぶりに連絡が来て会うことになった。
私はもう振り回されたりしない。強く心に決めて再会した。
……そんなの無理だった。社会人になった彼は学生の頃に比べて大人びていてかっこよくて、大好きだった彼のままで、またあの時の感情が一気によみがえって来た。
帰り際、彼から言われたのは、「来年、結婚しよう。迎えに行くから待ってて」だった。
彼との未来を何度も想像していたから嬉しかった。その言葉を励みに頑張った。

それから数か月後、彼の彼女と名乗る人から連絡がきた。
そう、私はまた騙されていた。
どうしていつもこうなる。何度も何度も自分を責めた。
今回は彼の思う通りにはさせまいと、何も言わず知らないふりをして彼の前から消えた。
苦しかったけど、仕方ない。

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それからは、私にも目指すべき目標ができ毎日充実していたのもあり、彼の事は思いださなくなった。
これでもうしっかり前に進める。そう思っていた時、また連絡がきた。
私の誕生日の前日。「一日早いけど、おめでとう。誰よりも早くお祝いしたくて」。そういうプチサプライズ、彼らしい。

感情はなかったけれど、あれから二年が経ち、あの頃はいろいろあったねって思い出を語り合えるくらいになっていた。
かくかくしかじかで会うことになったのだが、彼から「最後のチャンスをください」そうお願いされた。
何度も時間をかけ、大人になった彼を見てもう一度お付き合いすることを決めた。

学生の頃とは違って、金銭面には余裕ができ、時間も無限にあって、車も持ち、新鮮な気持ちでいっぱいだった。
色んな彼を知れば知るほど、感情が芽生えてきた。
そんな時、見てしまった。
また浮気していた。それからは早かった。私たちのつなぎとめる物がなくなった。

彼は、何度も謝ってきた。学生の頃の私はもうおらず、許せなかった。
流石にもう許せなかった。許さなかった。
一生のお別れをした。今まで消せなかったSNSはすべて消した。
もうどうでもよくなった。

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あれから一年経った。彼の事を思い出す日も無くなった。
あの頃の私に教えてあげたい。「時間が解決するって本当だよ」と。

私は今とても幸せだ。
元カレと比べるまでもない男性とお付き合いをしていて、彼からは沢山の幸せをもらっている。
男の人は「当たり前に浮気をする」と思っていたけれど、そんな思考を変えてくれたのは今隣にいる彼だった。

だから冒頭の言葉は、過去形にした。
過去の私はそう思っていた。でも今は、そう思っていない。

過去の記憶は思い出すたびに辛かったけれど、彼による上書きでそんな思い出も薄れてきた。
何事も時間が解決してくれるという事は、本当にあるのかもしれない。