誰かに聞いてほしい。でも、誰にどのタイミングで話せば良いのか分からなかった。話を聞いてもらってどんな反応をしてほしいか、そんなことも想像していなかった。
同情や心配や慰めを期待しているわけではない。そんな話を、独り言のようにエッセイに綴ることにした。書き終わったころの私の心は、晴れているだろうか。
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私は、男性が苦手だ。元々人見知りなところがあり、人と仲良くなるのに時間がかかるタイプだが、寂しくない程度に友達はいる。
その中に男友達は一人もいない。それは人見知りのせいだろうか。
小学校の低学年くらいまではクラスの男の子と話すこともあった。でも今の私は、アルバイトでの接客や実習班のメンバーとの業務連絡を除くと、男性と話をしたのは半年くらい遡ってもないかもしれない。私がここまで男性に対して距離を置くようになったのは、小学五年生頃からだろう。
小学五年生になりたての春。花粉症の症状が出始めて、かかりつけの耳鼻科に通っていた。いつもは母と一緒に行っていたが、その日は一人で自転車に乗って向かった。
病院の駐輪場に着いたとき、後ろから「ちょっと、すみません」と男性の声がした。駐輪場の入口は道幅が狭いので、急いでいて抜かしたいのかなと思った私は、慌てて端に寄った。
できるだけ壁に近づいて、大人一人が十分通れる通り道を作ったつもりだったのに、その男性は私を追い抜かさなかった。男性が少し私のほうへ来たので、「まだ狭いかな?」と思ってさらに端へ寄ろうとしたが、私は動けなかった。
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男性の手は、私の腰にあった。体が固まって、声も出なかった。
男性の手は、私のお尻や胸を順々に触った。「ちょっと、ごめんね」と何度も呟きながら、欲望を満たすためだけに私の小さな胸を触り続けた。
触れられていたのは三十秒くらいだったかもしれないが、私には永遠のように長く感じた。
誰でもいいから、助けてほしい。そう思い顔を上げると、二歳くらいの男の子を連れた女性と目が合った。その瞬間、男性は私から離れてどこかへ行ってしまった。
「大丈夫?」と女性に声を掛けられたが、バレてはいけない悪いことをした気持ちになり、弱々しくも頷いてしまった。その後は、誰にも迷惑をかける訳にはいかないと強く感じ、病院の診察を終わらせてすぐに帰った。
本当はずっと涙が溢れそうで、恐怖と闘っていた。
この日以来、私は大好きだったスカートを穿けなくなった。膝上丈の短いスカートにタイトなトップスを合わせるのは当時のお気に入りコーデだった。男性の餌になるような格好をしたのが悪かったのかと、考えることもあった。
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正直今でも、上りエスカレーターで真後ろが男性の時や、街中を歩いていて後ろから男性に追い抜かされる時は、少しだけ緊張してしまうことがある。
中学に入学すると、制服を着るようになったおかげでスカートに対する抵抗はずいぶん無くなって、ロングスカートは日常的に穿いている。中学・高校やバイト先など様々なところで男性と関わることで、全ての男性が女性に対して卑猥な見方をしているわけではないと思えるようになった。
時が流れたことで、事件のことはゆっくり考えないと思い出せないほど、記憶が薄れている。無意識のうちに、思い出さなくてもいいように記憶を消そうと頑張っていたのかもしれないが、時間が経てば経つほど心が軽くなっていることは確かだろう。
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最近は、恋人がいる友人や先輩が増えている気がする。インスタグラムを開くたびに仲睦まじい様子をあげているストーリーズを見る。彼らはいずれ結婚するのだろうか。私は恋人ができたことはないし、男性と手を繋いでハグをしてキスをするなんて、まだあまり現実的に考えられない。女性とならできそうなのかと、考えたこともあるけれど、それもちょっと違う感じがする。
時が経てば、付き合いたい男性と巡り会えるだろうか。もっと大人になれば、結婚願望が出てくるのだろうか。
最近行った占いでは「時間はかかるかもしれないけど結婚をするだろうし、幸せになれますよ」と言われた。その言葉を心の片隅に置いて、拗らせてしまった私がほぐれる日を待っている。