今まで生きてきた中で、1番好きな人だったと、胸を張って言えるくらい本当に好きな人だった。そんなことを宣言したところで、今更この恋が実を結ぶわけでも、私が幸せになれるわけでもないけれど。
歳の差は10個以上。ずっと憧れていた先輩だった。なにをするにもカッコよくて、周りから注目されていて、とにかく「中心」という感じの人だった。

「あなたがいない人生なんて考えられない。あなたがいなければ生きていけない」とずっと思っていたけれど、それってつまりは、「あなたがいない人生」に全く見向きもせず、それを蔑ろにしていたということだ。今まさに「見向きもしなかった人生」に救われているというのに。
あなたがいない時間を、私は過ごしていける。あなたじゃない誰かと、これから歩んでいく。あなたがいない、私の世界で。

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あなたとの恋で学んだことはまさしくそれだ。「あなたがいなくてもわたしは生きていける」ということ。
他愛もない話で笑い合った夜も、朝まで語り明かした電話も、意味もなくメッセージを送り合ったあの日のことも、全部、全部覚えてる。どれも大切でかけがえのない思い出だと。
だけど、ある日気づいてしまった。
私がすがっていたのは、「あなた」ではなく、「思い出」だということに。
笑っちゃうでしょ?あなたという存在が大切だったわけではなかったなんて。あなたと過ごした時間が、場所が、音が、匂いが、私を縛りつけて離さないのだ。そして私もそれを離そうとしなかったのだ。
寂しくて辛くて、何度あなたに連絡しようと思っただろう。でもその度に、昔の私が私を引き止める。昔、あなたとの別れ際に涙を流した私に。
「今、あなたがあの人に連絡したら、私があの時流した涙の意味は無くなっちゃうの?」
そう言われている気がして、メッセージを取り消す。
そうだ、ここで連絡したらまた引き戻される。「あなたがいる世界」に。あの日の私が必死に離れたというのに。
それで幸せになれるのは一体誰だろう。きっとあの人ももう望んではいないのだ。だから私も、もう望まないことにする。

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あなたがいない世界は、案外居心地のいいものだ。無理に笑わなくていいし、泣きたい時に思いっきり泣けるし、嫌いなものを好きだと嘘をつかなくていい。あなたを想っていた日々は、私を殺してきた日々でもあったのだ。
あなたの嫌なところもダメなところも好きだった。本当に心の底から好きだった。好きだったからこそ、私は私を殺せたのだ。でもその心のナイフはもう必要ない。あなたがいない世界の私の心に、それはもう刺さらない。

きっとこれからもっともっと長い時間をかけて、私はあなたを忘れていくのだろう。忘れていたことすらも忘れてしまうほどに。あの日涙を流した私はいつか成仏できるだろうか。
ゆっくり息を吸って吐いてみる。追い風がゆっくりと、やさしく、私の背中を撫でているようだった。