私には、誰にも言っていない秘密がある。それは“ノート”の存在。
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中学生の頃、私は恋に悩んでいた。
相手は同じ部活の一つ年上の先輩だった。色白で、背が高くて、ひょろっと薄っぺらく華奢な彼は、部長を務めるほどの実力があった。基本口数は少なく、何を考えているのかいまいちわからないところも多かったが、時折中学生らしく、友達とふざけ合ったり、楽しそうに笑う姿も見られた。
きっかけは何だったのか思い出せない。気がつくと私は、先輩を目で追うようになっていた。
私と先輩が関わることはほとんどなく、部活の練習中同じグループになれた時や、授業の合間に廊下を歩く姿を見かけられた時は、一人でこっそり喜んでいた。
そんな私の片思いは、誰に打ち明けるでもなく、胸に秘めたまま、時は過ぎていった。
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ある日、先輩に彼女ができたとの情報が入った。相手は同じ部活の、私の同級生だった。
先輩と仲良くなろうとか、告白しようとかは思っていなかったし、そもそもそんな行動力も度胸もなかったとはいえ、さすがにショックだった。それでも先輩への気持ちは消えることなく、むしろどんどん大きくなるばかりだった。
誰かに話したくても、恥ずかしさが勝ってしまうし、どこからか情報が漏れて、部内の空気を悪くするわけにもいかない。
そこで私は、この溢れんばかりの思いを、ノートに綴ることにした。
部活中、先輩の近くにいられたこと。休み時間に校内ですれ違ったこと。彼女と話しているところを見かけたこと。
どうしてあの子なんだろう。どうして私じゃないんだろう。せめて先輩同士で付き合ってくれたら。手の届かないところにいてくれたらよかったのに。
その日あったこと、思ったこと、今の気持ち。
何でもかんでも、手当たり次第書き殴った。
メンヘラと中二病が炸裂していて、それはそれは恥ずかしく、痛々しい文面だった。とても他人に見せられたものではない。
先輩のこと以外にも、あの先生がうざいとか、あの授業が面倒だとか、どうでもいいことを毎日書き連ねていた。小さくて汚い字で、ページいっぱいにびっしりと。
よくもまぁ、そんなに毎日書くことがあるなと、もはや感心する。ついには一冊使い切ってしまった。誕生日に誰かがプレゼントしてくれたノート。まさかこんな使い方をされるとは思ってもみなかっただろう。
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思い返すと、彼の何がそんなに良かったのか、さっぱりわからない。あんなにいつも目に焼き付けていたはずなのに、今どこかで出会っても、もう見つけられないかもしれない。さすがに15年も前の記憶は曖昧で、細かいことはいろいろと忘れてしまった。
ただ、本気で好きだったことだけは覚えている。
人生最初の大恋愛は、ノートを二冊使い切った頃、消えた。
今思えばそのノートは、私の“書くこと”の原点だったのかもしれない。
自分の気持ちを言葉にすること。文章にまとめること。下手くそで、支離滅裂だったかもしれない。それでもとにかくアウトプットすること。
そのノート達は、誰にも見せられないくせに、少し愛着もあって、捨てるに捨て切れず、今も部屋の引き出しに幽閉してある。私が死ぬまでには、燃やすなりして、どうにか処分しなくてはと思っている。
私が全力で生きた証。私を形作った、小さなかけら達。
14歳の私へ。
私は大人になっても、相変わらずいろんなことを書いているよ。毎日ノートに思いの丈を綴ったり、本気で人を好きになったり、真面目に部活を頑張ったり、君のやっていることは無駄にはならない。ちゃんと今に繋がっているよ。
一生懸命生きてくれて、ありがとね。