「早く忘れたい!」とか、「夢だったらいいのに」とか、誰でも思うことはあるだろう。
私もそうだった。
「朝起きたらみんなが記憶喪失になっていればいいのにな」とか、「リセットボタンがそこらへんに落ちてないかな」とか、そんなことばかりを考えていた時期があった。
その頃の私は小学生。多感期で些細なことが気になって仕方がなかった。
例えば人の噂とか、作り話とか。よくクラスの子が言いふらしていたけれど、それが苦手で直ぐ真に受けたりしていた。

でも大人になってから気づく。
小さい頃に気になっていたことや噂なんて、時が解決してくれることを。
でも子どもの頃はそれに気づかず、どうにか他人にからかわれないようにひっそりと行動するしかなかった。

◎          ◎

時が解決してくれたのは、小学生の頃の「告白」だった。
私は告白をした側ではなくされた側。クラスで仲の良い男子から「好きだ」と言われた。
その時の私は「え?なんで私なの?」と驚きはしたが、その場では何も言わなかった。
でもその時、少しだけその子と付き合ったときのイメージをしてみた。告白してくれたのは私が嫌いでもないし好きでもない男の子。隣の席でいつもお話をしていた彼。とても優しかった。いいな、と思わなくもない。微妙な心境だった。

でも私には不安があった。
クラスの男子に、よくその子といるとからかわれたのだ。
「やーい、お前たち付き合ってんの!?ヒューヒュー!」
「えー?教室でいちゃいちゃするのー?えー?」
のようなことを言われることもしばしば。
そう言われてしまうと私は何も言えなくなってしまって、ずっと黙ったまま下を向いていた。言い返してやればいいのに、私は言い返すことができなかった。
それを聞いていた隣の男の子も何も言わない。でも冷やかしが無くなるとすぐにまた話しかけてくれた。
そんな優しい男の子から告白されたのに、私は酷いことを言ってしまった。その言葉は彼を大きく傷つけたと思う。

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私はこの子と付き合うかどうかを考えたとき、恐れていたことを考えてしまった。
「付き合ったらまたクラスの子たちにからかわれる。何か言われるかもしれない。冷やかされるかも。そんなのは我慢できない」
私の一方的な考えだ。私は弱かったから周りの目を気にした。何か言われるのが怖かったし、付き合ったその先を想像するのが億劫だった。

だから、告白してきた子に言ってしまった。
「君のことなんか好きじゃない!!!」と。
そして私は逃げた。その子の姿を見ることはできなかった。

次の日から私はその子のことを避けがちになった。その子の方も私を避けていたし、仕方がなかった。
「いつ謝ろう……本当はそんなこと言いたくなかったのに」
そう思ってももう遅かった。私とその子の間には壁ができてしまった。もう壊せないほどの分厚い壁。二人は話すこともなくなった。

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その子とふとした時に再会した。10年以上ぶりだ。
体型も変わっていた。身長も声も。
ああ、こんなに変わってしまうのかと思ったほどだ。
私の脳内にはあの時の告白された映像がちらつく。私はこの人を傷つけた。そしてそのまま置いていったのだ。
彼は私のことをどう思っているのだろうか。冷たい人間だと思ってはいないか?
ぐるぐる頭の中を悪い思考が駆け巡る。

すると、彼も私に気がついたようでこちらに近づいてきた。
「あれ?すももさんじゃん!元気?」
その言葉にホッとしたが、違和感を持った自分もいた。
すもも“さん”なんて言い方、変じゃないか?他人行儀みたいで……。
でも10年以上会ってなかったから普通?私の考えすぎ?告白されて拒否した私はこの人に恨まれていると勘違いしていたのか?
なんてことを一人で考えていたが、彼の方は私がそんなことを思っていたなんて思いもしないだろう。彼とはただ普通の話をした。他愛のない話。

10年の月日って偉大だなとその時に思った。
ずっと不満に思っていた出来事をあっという間に流してくれる。
勝手に相手のことを忘れるなんて一方的すぎるのでは?と私自身が自分を縛り付けていただけだったのかもしれないな。

もし時間に縛り付けられている嫌な思い出を持っている人がいるならば、その思い出は時間が解決してくれるかもしれない。