今このエッセイを読んでいる人の中に、いわゆるクラスの「1軍女子」だった人はどれくらいいるだろうか。
Swimmerのゆめかわパステルカラー、大きなマスコットキャラクターで飾られた学校指定の鞄、サラサラでいい香りのする髪と白くてきめ細かい肌。
今だときっとSNSでファンができる女の子。
そんなキラキラな学生時代を送っていた人たちには絶対にわからないであろう、結婚してからできてしまった秘密の話。

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まだカップルだった時の私達には、隠しごとなんて一つもなかった。
隠しごとをしようにも噂好きが多い会社にいれば、上司の手取り額から社内不倫の相手までなんでもわかってしまう。
おしゃべりな先輩にさりげなく聞いてしまえば相手のことがわかる社風は、反対に言えば周りの目があるから変なことができない。
良くも悪くもオープンな環境が、彼への信用にもつながっていた。
彼とはすでに結婚を意識したお付き合いだったので、親の困ったところや奨学金の有無、どれくらい貯金をしているかまで何でも伝えていた。
このまま入籍後も秘密がない夫婦でいられる。
そう思っていた。
「それ、小さい頃のアルバム？見せて！」
「ダメ！！！！」
新居へ引っ越し作業をしている間中、私は幼少期のアルバムの隠し場所を必死に探していた。
彼に対してできた初めての隠しごと、それは……過去の容姿。

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赤ちゃんの頃はまだ可愛かった。
問題は小学校以降。
私は美意識というものが欠落した子供だった。
髪の毛はぼさぼさ、男の子が着るようなズボンを履いて服のセンスは皆無、ぽっちゃり体系。
親から毎朝登校前に「その服で学校行くの？」「髪の毛とかしたら？」と言われていた気がするが、まったく気にしていなかった。
今あの時に戻れたら、少なくとも寝癖は直して登校したい。
中学に上がってからは少し容姿を気にするようになったが、くせが強い髪質をどうしたら直せるのか、みんなみたいに足をほっそりさせるにはどうしたら良いか、見当がつかなかった。
うちが貧しかったのもあって、服は地元で愛されるお安いブランド、制汗剤さえ買ってもらえなかった。
スクールカーストの最下層にいる地味ーズの私。
高校に入って縮毛矯正やダイエットもしたが、卒業アルバムの個人写真は相変わらず残念なままだった。
そんな過去を新婚ほやほや、大好きな彼に見せたらどうなるか？
嫌われるわ！

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彼にアルバムを見せていないのにはもう一つ理由がある。
見栄である。
20～21歳が私のモテ期だった。
専門学校卒業後、入社した会社ではなぜか「学生時代モテたでしょ～」と色んな人に言われたし、彼氏が全然途切れなかった。
しかも彼と付き合った理由が彼からの一目惚れ。
男性が多い職場だったからブスでもチャンスがあっただけだと思うが、あの頃は自分がとても可愛いような気がしていた。
あの時彼に見せていた学生時代の写真は、奇跡の一枚や盛れに盛れたプリクラのみ。
学生時代に憧れたけどなれなかった「一軍女子」に、20歳でなれた気がしていた。
どうしてもイメージを崩したくなかった。
加えて彼は私と違ってクラスで目立つグループにいたタイプ。
身内ながら卒業アルバムの彼は結構かっこいいし、野球部のピッチャーでチアリーダー部の後輩と付き合っていたらしい。
比べたってしょうがないのはわかっている。
でも学生時代から可愛かったと思われている（はず）の彼に昔の姿を見せたら？
引かれる！
結婚式のプロフィールムービーで使う写真を選ぶ時、あんなにアルバムを隠していた花嫁は私だけだと思う。

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隠してはいるものの、本気で探せばアルバムなんかすぐに見つかるだろう。
もしかしたらもう既に彼は私の秘密を見てしまったかもしれない。
そもそもそこまで美人じゃないし、家では非常にだらしない恰好で過ごしているのですでに可愛いとは思われていないかもしれないけど……。
それでももう少し彼の中では「昔から今までずーっと可愛い私」のままでいたい。
お世辞にも可愛いとは言えない過去の自分をさらして彼と笑い合えるのは、もう少し先になりそうだ。